『学園ドラマは日本の教育をどう変えたか:“熱血先生”から“官僚先生”へ』(西岡壱誠著)では、ドラマや漫画の教育監修をするベストセラー著者が、『金八先生』から『御上先生』まで、歴代の学園ドラマで描かれるテーマとメッセージから、日本の教育と教師像について伝えます。
今回は本書から一部抜粋し、今という時代が若者にとってどんなものか、また「これからの先生像」について紹介します。
若者から「意欲」がどんどん失われている時代
時代の変化の中で、これからの学園ドラマ・先生モノには、どのような方向性が付与されると考えられるのだろうか? 自分が考える「これからの先生像」を紹介したい。まず、今は若者から「意欲」がどんどん失われているということがよく取り沙汰されており、今のガツガツしていない若者たちが「Z世代」「さとり世代」という言葉で括られるようになった。
かつて教育困難校と呼ばれた学校も、どんどん形を変えてきている。荒れている生徒の数は少なくなり、そもそも学校に来ない不登校の生徒や、学校に週5では通わなくて良い、ネットで完結する通信制高校も増えてきている。
今の学校教育を反映していると考えられるインタビューを1つ紹介したい。
東洋経済オンラインで、自分と教育系ライターである濱井正吾さんが「教育困難校の先生にインタビューする」という企画をやっているのだが、その中で、東海地方の偏差値40以下の私立高校で30年、教員をやっている先生にインタビューした内容が衝撃的だった。
「以前は、自分の学校の生徒たちは、男子生徒も女子生徒もみんな、『こんな底辺高校のバカとは付き合いたくない』と言っていたんですよ。それを聞いて自分は、『お前だってこの高校の生徒じゃないか、どの口が言ってるんだよ! 』と笑ったものです。
ですが、それって裏を返せば生徒がみんな『こんなところには、居続けてはいけない』と考えていたということですよね。やっぱり、『このままじゃいけない』という感覚があって、どこか飢餓感があった。
だから自分も、『じゃあ、そのためにもしっかり勉強しようぜ』といった声をかけることができていたんです。そうすることができていたからこそ、実際に頑張って勉強して、ちゃんとした大学に行った生徒もいました。でも、今はそんなことはないですね」
「片親だったり貧乏で親が忙しい家庭の生徒というのは、親が一生懸命働いているところを見ています。だから、まだ子どもも、一生懸命に自分の人生を考えるんです。
でも、最近は生活保護世帯の子どもが増えています。そういう家庭の子どもは『身近な大人が、一生懸命じゃなくても生きて行けている』ということを目の当たりにしてしまっているんですよね。
そういうマイナスの学びを得てしまっていると、どうしても何かに対して、努力をするということができなくなっていくんですよね。その結果として勉強もせず、学校も不登校気味、という生徒が多い印象があります」
この先生の言っていることを要約すると、「頑張って何かを得よう」という時代ではなくなってきているということである。昔よりも何かに対する飢餓感がなく、夢を持って何かを追うということが時代遅れになってきているというわけである。
「夢を諦めさせる先生」の登場
このような傾向の中で生まれたのが、2023年から連載が始まった『夢なし先生の進路指導』である。これは、声優やアイドル・保育士や棋士などの夢を持っている生徒に対して、元キャリアコンサルタントの高校教師である高梨先生・通称「夢なし先生」が、現実的なデータを基にしつつ、その夢がどれほど大変なものなのか、という残酷さを語るという内容になっている。
かつては「ROOKIES」でも「金八先生」でも、生徒の夢を否定することはなかった。しかしこの作品では、先生という大人の立場の人間が夢をしっかりと否定するということが行われている。
夢を見せる先生から、夢を諦めることを促すような先生も登場しているわけである。この作品がすごいのは、どの夢に関しても綿密な取材を基に描かれていて、各業界のリアルな悩みや苦労が描かれているところである。
自分の正直な感想を言ってしまえば、「ついに学園ドラマ・先生モノはここまで来たのか」という感じである。きっとこの「現実路線」の作品はこれからどんどん増えていくことだろうと考える。
「金八先生」のような熱血教師ものでも、「GTO」のようなファンタジーの元ヤン先生ものでもなく、これからの1つの先生モノの在り方として、「夢を諦めさせる先生」というのも増えていくのではないかと感じる。 西岡壱誠(にしおか いっせい)プロフィール
東大生、株式会社カルペ・ディエム代表、日曜劇場『ドラゴン桜』監修。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、3年目に合格を果たす。在学中の2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立、代表に就任。全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。テレビ番組『100%!アピールちゃん』(TBS系)では、タレントの小倉優子氏の早稲田大学受験をサポート。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営し、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。