生成AIで作った写真・イラストにたまたま似ている人がいた場合は?
続いて一般人の場合ですが、一般人も有名人と同様に肖像権がありますので、一般人の顔が写っている写真やイラスト・似顔絵を生成AIで生成してそれをWebサイト等にアップロードすると、その一般人の肖像権を侵害してしまう可能性があります。よって、先述した有名人の顔が写っている生成AIによる写真やイラスト・似顔絵についてやってはいけないことは、一般人の顔についても同様となります。
なお、一般人の顔にまつわる問題では、人の顔が写っているAI生成の写真やイラスト・似顔絵が、意図せずたまたまある特定の人物にそっくりだった場合、肖像権侵害になるのかという問題があります。
この問題に関連するところでは、1つ興味深い日本の事例があります。
2023年5月29日発売の、集英社が発行した雑誌『週刊プレイボーイ』(24号)において、「さつきあい」という生成AIで作られたAIグラビアアイドルが登場し、デジタル写真集まで販売されました。
しかし、このAIグラビアアイドルは登場直後から、実在の元グラビアアイドルに非常に似ているという指摘がありました。
そうした指摘に対して、集英社は、「特定の人物をもとに生成したものではない」と回答していましたが、結局6月7日にはこのAIグラビアアイドルの企画を終了すると発表しました。
その際のコメントは、「制作過程において、編集部で生成AIをとりまく様々な論点・問題点についての検討が十分ではなく、AI生成物の商品化については、世の中の議論の深まりを見据えつつ、より慎重に考えるべきであったと判断するにいたりました」というものでした。
上記コメントにもあるように集英社が意図的に元グラビアアイドルに似せたわけではないと思いますが、たまたま似ていたとしても、多くの指摘を受けて結果として企画終了に至ったという事例です。
このように人の顔が写っているAI生成の写真やイラスト・似顔絵が、意図せずたまたまある特定の人物にそっくりだったらという問題はありますが、この問題に関して明確な判断を示せるような裁判例などはないのではと考えるので、今後このような問題が実際に生じたときに、どう考えて判断するかという課題があると言えます。
亡くなっている故人の顔はどうなのか
最後に、すでに亡くなっている故人の顔が写っているAI生成の写真やイラスト・似顔絵についてですが、日本の場合は、亡くなった故人には肖像権が基本的には認められないため、通常は問題になりません。ただし、個人の肖像が写っている画像を、虚偽に基づく誹謗中傷などに使用する等の悪意のある使用の場合には、刑法で定める名誉毀損罪(刑法第230条)に該当する可能性があります。一方、海外ではアメリカのように故人の肖像権を一定期間認めている国等もあります。例えば、ハリウッドがあるカリフォルニア州では、死後70年の肖像権を認めているため、ハリウッド俳優などの肖像は、死後であっても生成AIなどで使用するには注意が必要です。
なお、本稿の冒頭にあるマリリン・モンローのイラスト画は、生成AIを利用して生成したものですが、これをWebサイトに掲載することは問題ありません。なぜならマリリン・モンローの場合は、法的な最期の居住地がニューヨークであるとアメリカの連邦裁判所でも認められており、そのため死後の肖像権を認めていないニューヨーク州法が適用されるので、その肖像をこのように利用することは問題ないと考えます。
生成AIの利用にあたって、人の顔を利用するというだけでもいろいろと注意点があります。他にも著作権の問題など多くの課題がありますが、アメリカで行われているように、徐々に日本でもルールが整備されて生成AIを利用しやすい状況になることが望ましいと筆者は考えます。
<参考>
NHK NEWS WEB 2025年6月12日「米ディズニーなど “生成AI 作成画像が著作権を侵害”と提訴」
集英社 週プラ グラジャパ!「さつきあいデジタル写真集 『生まれたて。』 販売終了のお知らせ」
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