東北大学加齢医学研究所教授で脳科学者の瀧靖之さんの著書『本当はすごい早生まれ』では、脳の仕組みに基づいた効果的な学習方法や、子どもの能力を最大限に引き出すためのヒントが満載です。
今回は本書から一部抜粋し、受験勉強において「苦手科目を克服させる」という一般的な考え方とは異なる、脳科学に基づいた意外なアプローチと、何歳になっても学び続けることができる脳の「可塑(かそ)性」という驚くべき力について紹介します。
脳科学から見た受験勉強のコツ
脳科学から見た受験勉強のコツをお伝えしておきましょう。脳というのは、ひと言でいえば「やればできる臓器」です。やればやっただけ、成果を見せてくれるのが脳なのです。ただ、脳をうまく使うためにはコツがあるのも事実。だから勉強には正しいやり方があるのです。
脳には、あることを頑張ると、脳全体のパフォーマンスが上がるという性質があります。これは「汎化(はんか)」と呼ばれる脳の特徴です。「汎」というのは、「広くゆきわたるさま」を意味する漢字です。汎化はあらゆることから生じます。
例えば「部活を真剣に頑張ると、成績が伸びる」というのも汎化の一つです。「最後まで部活をやっていた子が、第一志望の学校に入学した」というのはよく聞く話の一つですが、脳科学から見れば驚くことではありません。
脳のパフォーマンスが全体的にアップするのは、心理的影響も大きいと思います。つまり、何かに自信を持つことで、他のものへの自信につながる。方法論的にいえば、あるものを極めることで、極め方がわかる、ということがあるかもしれません。
これを受験勉強の科目に置き換えて考えれば、得意な科目をさらに伸ばすという方法になります。
脳科学的には「凹みを埋める」のはおすすめしない
受験勉強においては、「凹みを埋める」のが当たり前の方法です。例えば算数(もしくは数学)が苦手で、国語が得意な子に対しては、算数の点数を上げるように指導することが多いと思います。脳科学から考えると、おすすめは「凸をさらに伸ばす」方法です。国語が得意なら、国語を突き抜けさせる。
「国語はできるから、算数をやりなさい」ではなく、さらに国語に力を入れるのです。すると、他が伸びてくる。国語が伸びるだけではなく、全体の成績が伸びてくるのです。
うちの息子は、成績的には特に突出していたわけではありませんでしたが、国語が得意でした。ですから、国語だけは、小学3年生の頃に中学2年生の問題まで解かせていました。苦手だった算数は、それにつられるように少しずつ伸びていきました。
また、可塑性についても思い出しておきましょう。脳には、「思い通りに脳自体をつくることができる・変化させることができる」という性質がありました。これはつまり、シンプルにいえば「勉強をすれば、成果が出る」ということです。
すぐに成績に現れなくても、脳は勉強をすれば変わっていきます。受験勉強が無駄になることは、決してありません。
脳の「変わりたい力」を最大限活かす
可塑性という性質のすごいところは、何歳になってもその性質が残ることです。「学ぶのに、遅すぎることはない」というのは気休めではなく、脳科学的な事実なのです。しかし年齢が上がるにつれて、暗記科目はつらくなります。小学生の頃は何の工夫もしなくてもできた暗記が、中学生、高校生になってくると難しくなってきます。
そのような場合は、まず簡単なものに取り組み、その後難易度を上げると良いでしょう。全体像をざっと把握してから、細部に入って行くというイメージです。
医学部でも、学生は少なからず、まずは一般の人でもわかるようなやさしい参考書を読んでから、専門書に取りかかります。
このようなステップを経ると、覚えやすいからです。歴史漫画を読んでから、歴史の問題を解いてもいいですね。
これは「流暢性効果」といって、「ちょっと知っていると、興味関心が湧く」という現象です。
最初に脳に簡単な情報を入れておくことで、その後の類似の情報が理解しやすくなるのです。
昔、古典の勉強として『源氏物語』を頑張って読もうとしたのですが、もう全然頭に入らない。仕方がないので、現代語訳で読んでから原文にあたったら、びっくりするくらい内容が頭に入ってきました。これも流暢性効果のひとつです。
これは英語も同じです。日本語訳の『ハリー・ポッター』を読んでから原書を読んだという方は、「英文が頭の中で勝手に翻訳されて、スラスラ読めた」といっていました。
逆に原書から読んだという方は、「9と3/4番線が出てきたところで挫折した」といっていました (まだ物語の入り口です)。
翻訳を読んでから、漫画を読んでから、映画を見てからなど、とっつきにくそうな本や科目がある場合には、先に他の方法で情報を仕入れておくといいかもしれません。
流暢性効果で興味が湧いてきたら、それで終わりにせず原文に当たるという習慣をつけましょう。これで学力は大いに伸びていきます。
瀧靖之(たき やすゆき)プロフィール
東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。早生まれの息子の父。脳科学者としてテレビ・ラジオ出演など多数。