今回は、小学校から高校までのPTA活動について、保護者の関わり方や会費の違い、そしてPTAが抱える課題と変化する姿を紹介します。
小学校PTAの特徴:日々の安全に関わる活動を行う
小学校のPTAは、地域との連携が多く、子どもの登下校の見守りなど、日々の安全に関わる活動が中心となる傾向にあります。具体的には、学校行事のサポート、保護者同士の交流の場の提供、親子イベントの企画・運営などを行います。文部科学省の「子供の学習費調査」によると、公立小学校のPTA会費は年額平均2694円で、小・中・高校の中では最も安価です。
中学校PTAの役割:思春期の子どもたちを見守る
公立中学校は近隣の小学校が統合されることが多く、それに伴いPTA会員となる家庭の数も増加します。子どもの成長に伴い登下校時の見守り活動が減るため、小学校と比べると役員や委員を担う保護者の割合は少なく、活動に伴う負担も軽減される傾向が見られます。
子どもたちが思春期を迎え、親子のコミュニケーションが少なくなりがちなこの時期、PTA活動は高校進学をテーマにした保護者同士の対話の場を設けたり、学校と協力してキャリア教育活動を行ったり、生徒会と連携したりするなど、子どもたちの成長を支える重要な役割を担います。
同調査では、公立中学校のPTA会費は年額平均3159円です。
高校PTAの特徴:生徒の進路をサポートする
高校のPTAも、小・中学校と同様に多くの学校に存在します。組織形態は小・中学校とほぼ同じですが、本部役員は子どもの入学から卒業までの3年間務めることが多いのが特徴です。役員選出においては、小・中学校でのPTA経験者が担うケースが多く、「免除の儀式」(※PTAの役員や委員の仕事を免除してもらうために、個人情報を人前で話すこと)のような軋轢(あつれき)は少ない傾向にあります。
活動内容としては、進路相談会や卒業生による講演会など、生徒の進路をサポートする活動を行うPTAが多く見られます。また、スマートフォンやSNSの利用、アルバイト、友人関係など保護者の悩みも多様化するため、専門家を招いた講演会や保護者同士の座談会を開催するPTAもあります。
通学エリアが広くなり、保護者の就業率も高いため、運営委員会などの会合は主に年に数回、必要に応じてオンラインを活用して開催されることが多いです。対面での会合に参加する際には、交通費を支給するPTAも存在します。
公立高校のPTA会費は年額平均6581円と、小・中学校に比べて高めです。
私立中学校・高校のPTAの特徴:学校の教育理念や特色を生かした多様な活動
ここまで公立学校のPTAについて見てきましたが、私立の場合はどうでしょうか。私立中学校・高校の場合、PTA会費は公立よりも高額になる傾向が見られます。年間数万円に及ぶ学校も少なくありません。
この高額な会費は、PTAが学校運営に積極的に関わり、教育活動の充実や施設設備の維持などに充てられることが多いためと考えられます。
私立のPTA活動は、その学校独自の教育理念に即して行われるのが一般的です。国際交流活動への協力や保護者向けの教養講座など、学校の特色を生かした活動が展開されます。
一方で、PTA自体が存在しないケースもあります。また、生徒の主体性を重視する学校では、PTAが生徒会と連携を強化し、生徒が企画するイベントをサポートするなど、公立とは異なる形で学校を支える多様な協働が見られます。
PTAの課題:「学校の第2の財布」問題とは?
「PTAは学校の第2の財布」。この言葉に、思わずドキッとした方もいるかもしれません。これは簡単に言うと、「本来は公費(税金)でまかなわれるべき学校の費用を、PTAの会費から捻出しているのではないか」という疑惑を指す言葉です。
学校運営には、当然ながら多額の費用がかかります。例えば、
• 教室のエアコン設置やその電気代
• 部活動の活動費や遠征費
• 生徒が受ける模試の費用
• 進路指導にかかる費用
• 校舎の修繕費や備品購入費
これらは本来、国や自治体からの予算(公費)で賄われるべきものです。
しかし、学校によっては公費が不足していたり、特定の費用に充てられなかったりする事情から、PTAの会費を「あて」にしている実態があると言われています。
つまり、PTAが保護者から集めた会費が、本来のPTA活動に加えて、学校の「足りない部分」を補うために使われているのではないか、という指摘があるのです。
多くのPTAでは適切な会計処理が行われていますが、前述のような費用の一部がPTA会費から捻出されているケースがあり、学校教育法や地方財政法の観点からも問題となる可能性があります。
「できる人が、できる時に、できることをやる」PTAに
会費の使途だけでなく、任意団体であるPTAの加入や活動のあり方自体が問われている現状も、見過ごせない課題です。PTAは、小学校から高校まで、公立・私立に関わらず、社会教育法第10条に規定されている「入退会自由の任意団体」です。本来は、PTA本部が保護者と教職員に対し、入会届などで加入・非加入の意思を確認するのが当然のあり方です。
しかし、実際には「自動入会」「強制参加」が基本ルールとなり、「前例踏襲」を繰り返すPTAも存在し、これが多くの保護者の不満や不信感につながっています。
さらに、「PTA会費から学校への多額の寄付が発覚」「PTA役員がPTA会費を着服」など、PTAとお金をめぐるトラブルの報道も後を絶たず、厳しい視線が注がれているのは事実です。
その一方で、任意加入制へと舵を切り、学校と対話を重ねながら、これまでの活動内容を見直してスリム化を進め、「参加しやすいPTA」に進化している事例も増えています。
筆者も取材を通して、さまざまな工夫を凝らし、明るく風通しのよい空気感を醸成し、「できる人が、できる時に、できることをやる」を体現しているPTAを数多く見てきました。
PTAをよりよい団体へ
そうは言っても、まだ過渡期にあるため、不本意な参加を強いられているご家庭もあるのでしょう。SNS、特にX(旧Twitter)には、PTAへの否定的な声があふれています。「うちの子が通う学校のPTAはとんでもなく強制的だった」と、PTAからの配布文書を写真に撮り、匿名でその文書を公開する投稿も見受けられます。
しかし、SNS上で不満を漏らすだけでは何も変わりません。PTA側の運営方法に問題がある場合に、その保護者が本来最初にするべきことは、配布文書をSNS上で公開することではなく、「当事者」としてPTA本部に直接問い合わせることです。
最後に、保護者の皆さんにお願いしたいことがあります。
PTAから配布される規約、会計報告、予算書に、目を通してください。子どもが通う学校のPTAがどのように運営されているのか、会費が何に、どのように使われているのか。その内容に目を通し、使途不明金がないか、公費で賄われるべき項目がないかなどを確認し、不明な点があれば本部に問い合わせてほしいのです。
もし敷居が高ければ、周りの保護者に「これってどう思う?」と、ざっくばらんに聞いてみるのもよいでしょう。これが、健全なPTAを築くための第一歩となります。
PTAという「関わり」から完全に逃れることは難しいかもしれませんが、保護者という「当事者」である私たち自身で、その「あり方」を変えることは十分に可能です。
保護者一人ひとりの真摯(しんし)な関わりと小さな一歩が、子どもたちの未来を、そしてPTAをより開かれた、学校と保護者双方にとって実りある場へと変える鍵となるのではないでしょうか。