現実は法律よりずっと進んでいる。同性愛者だけでなく、今は性的関係に興味のない人、性的欲求のない人もいて、彼らが「家族」を望んでいるケースもある。
婚姻は届を出して法的に一番小さな社会として認められることかもしれないが、その内情はカップルの数だけあると言ってもいいかもしれない。
「友情婚」がしたかった
「恋人と付き合うと束縛される、男のわがままを許さないといけない。私が20代でしてきた恋愛は突きつめると、みんなそういう感じだったんです。だから恋愛も結婚ももういいやと諦めていました」そう言うのはユウコさん(40歳)だ。ところが33歳のときに知り合ったセイタさんは、ずっと友達として付き合うことができた。
「男とか女とか意識することなく、彼とは長電話したり、急に『今日、会わない?』と呼び出したり。互いにそんな感じで仲のいい友達関係をキープしていました」
関係が変わったのは5年が経過したころだった。「ユウコは結婚しないの」と聞かれ、彼女は自分の正直な気持ちを告白した。
「過去、男性と付き合ったことがあるけど、従来の男性性とか女性性をちっともいいとは思えなかった。私はホスピタリティがあまりない。彼のために何かしてあげたいというかわいい女じゃないし。実は性的な欲求もない。セックスもしない、互いの生活にも干渉し合わないような結婚なんて、結婚じゃないでしょと言ったんです」
二人の考えが一致して
するとセイタさんは、「実は、僕もそういう結婚ならいい」と言い出した。ユウコさんは、セイタさんが同性愛者なのだろうと推測していたのだが、実際はそうではなくて他者に性的欲求を持たないタイプだったのだ。「私も彼も性的欲求は持たないけど、例えば手をつなぐとかハグをするくらいなら歓迎なんです。キス以上は無理。そのあたりもほぼ一致していたんですよね」
さらに話し合ってみると、子どもをほしいとは思っていないこと、動物が大好きだから保護犬や保護猫を引き取って育てたいと願っていることなどが同じだった。
「単なる同棲でもいいんですが、彼も私も、それぞれの親から『いい年なんだから結婚して』『安心させて』と言われているのも一緒だった。じゃあ、結婚しようということになって。年齢が年齢なので、特に子どもをと期待されることもなく、ただひたすら『伴侶ができてよかった』と双方の親は大喜びでした。親にしてみれば自分たちは老いていくばかり。子どもが結婚もしないでいるのが心配なんでしょうね」
同居して1年弱だが、二人はそれぞれ干渉し合わず、だが無視することもなく、つかず離れずの結婚生活を快適に過ごしている。
夫と妻という意識はない
それぞれの親たちとも適当な距離で付き合っている。「正月だから、お盆だから行かなければという感覚はありません。今年のお正月に彼の実家に行ったんですが、もともと何年も実家に顔を見せなかった彼だから、結婚して数カ月後に来てくれるなんてと義父母は喜んでいました。うちも同じです。私の両親は結婚しただけでもう全てOKみたいな感じなので、彼と二人で顔を出したらものすごく喜んで。父は彼とお酒を酌み交わしながら、二人とも好きなヨーロッパのサッカー話で盛り上がっていました」
互いの実家へ行ったとしても、いわゆる「夫婦の自覚」はほとんどない。「友達のまま。その関係だからこそ一緒にいられる」のだという。
財布は別、平日は食事も別だが、ときには一緒に外食することもある。保護犬を飼う方向で検討中だ。
この関係が本当に楽
「彼の学生時代からの親友と、私の親友は本当の私たちの関係を知っています。恋愛ではなく、友情だけで結婚したことを。でもこういう結婚もいいじゃないと言ってくれる」二人とも性的欲求がないので、レスに悩む必要もない。セックス=愛情というわけではないとそれぞれが理解しているのだ。
「彼は私にとってどういう存在かと聞かれれば、表向きは夫だと答えますが、本心は『心の友』かなあ。広い意味で愛はありますよ、恋がないだけ。そんな結婚、意味があるのと言われるかもしれないし、説明が面倒だから人には『普通の結婚』をしているようにふるまっていますが、実際には本当に気が楽で、毎日が充実しています」
男女の間で常に問題となる「セックスの関係」を求める必要がなくなれば、人はもっと気持ちが楽になれるのかもしれない。