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乙武洋匡が「小学校で怪我は起こります」と言い続けた理由……除菌教育が子どもから奪う大切なもの

今の学校は「安全第一」が行き過ぎて、子どもたちが「転ぶこと」すら知らない? 失敗から学ぶ機会を奪われた子どもたちの未来とは。現代教育の「除菌信仰」の危うさについて考えます。※サムネイル画像:PIXTA

執筆者:All About 編集部

今の学校は「安全第一」が行き過ぎて、子どもたちが物理的にも精神的にも「転ぶこと」を知らない? ※画像出典:PIXTA

今の学校は「安全第一」が行き過ぎて、子どもたちが物理的にも精神的にも「転ぶこと」を知らない? ※画像出典:PIXTA

今の学校は「安全第一」が行き過ぎて、子どもたちが物理的にも精神的にも「転ぶこと」を知らない?『教育における「足りなさ」の重要性』(乙武 洋匡・渡辺 道治著)は、小学校教師としての経験を持つ、乙武洋匡氏と渡辺道治氏の対話の中で、教育現場での実践ケースや感動のエピソードが語られます。

今回は本書から一部抜粋し、学校現場で過剰に進む「ゼロリスク信仰」が、実は子どもたちから貴重な機会を奪ってしまっているのではないか、という問題提起と、その背景にある保護者とのコミュニケーションのあり方について紹介します。
<目次>

子どもが転ぶことが減ってきた

渡辺道治:子どもが転ぶことが減ってきています。これは物理的な意味での転倒もそうですが、失敗体験や挫折経験なども相当減っていると思います。

結局、どんどんファブリーズをかけるようにして、除菌を繰り返して無菌状態を目指すような形に進んでいってしまうと、転ぶチャンスが減ります。

そして、転ばないということで「立ち上がり方を知らない」という別のリスクが生まれてきているように思います。

だからこそ現代において大事なことは、「失敗のデザイン」だと思っています。「失敗学」という学問もあるほどで、失敗をどうやってデザインするかについては、教育者として特に考えておかないとなりません。

もちろん、命に関わるような究極のリスクは避ける必要はあります。

でも、失敗による学びについてちゃんとわかった上で設計してあげることはすごく大事だと思っています。

「小学校では怪我は起こります」

乙武洋匡:渡辺さんが言う「失敗のデザイン」については、保護者とも共有していかなければいけません。

たとえば、私がずっと言い続けてきたのは、「小学校では怪我は起こりますよ」ということ。これはちゃんと伝えなければいけません。

学校の決まった面積に対して、何百人もの子どもがいるというのは、明らかにキャパオーバーです。しかも、子どもたちはダメだと言ったって走り回る生き物なわけです。

しかも、1年生という直前まで幼稚園児だった存在から、あとちょっとで中学生になる6年生までが同居しています。その子たちが一斉に遊んだら、それは怪我も起こります。

そうした事実やリスクを共有しないまま子どもたちをお預かりしているから、いざ子どもが怪我をしたときに訴訟が起こったりする。

だから、怪我が起こる可能性はあるよ、ということをきちんと伝えられる信頼関係を築くことが大事です。繰り返しになりますが、日頃からのコミュニケーションが重要になってくるのです。

「ぶつかること」を無くすのは教育ではない

渡辺道治:そうですね、私もそのことを最初に言っていました。

学級通信の第1号で、まず「私は足りていない人間です」と宣言し、それから、「これだけの人数が集まったら、ぶつかったり、揉めたり、いさかいが起きるのが自然です」と伝えていました。

ぶつかったり転んだりしていく中で、子どもたちはものすごく大切なことを学んでいきます。ぶつかり自体をなくしていくようなものは教育とは言いません。

ですが、これをちゃんと伝える必要があるのですが、言葉だけで伝えても保護者の方のイメージにつながらないこともあります。

保護者の方自体も、もう無菌教育、除菌教育が始まったくらいの世代であったりするからです。

だから、学級通信だけでなく授業でも懇談会でも伝えるようにして、保護者の方々の中にも「転ぶことの価値」や「失敗することの意味」を繰り返し伝えるようにしてきました。
  乙武洋匡(おとたけ ひろただ)プロフィール
1976年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が 600 万部を超すベストセラーに。 卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している。

渡辺道治(わたなべ みちはる)プロフィール
2006年北海道教育大学卒。元小学校教員。2013年JICA教師海外研修にてカンボジアを訪問。2016年グローバル教育コンクール特別賞受賞。2017年北海道札幌市公立小学校にて勤務。国際理解教育論文にて東京海上日動より表彰。2019年ユネスコ中国政府招へいプログラムにて訪中。JICAの要請・支援を受けSDGs教材開発事業としてラオス・ベトナムを訪問。初等教育算数能力向上プロジェクト(PAAME)にてセネガルの教育支援に携わる。2022年から愛知県における新設私立小学校にて勤務。2023年からはアメリカ・ダラスにある学校「Japanese School of Dallas」の学習指導アドバイザーに就任。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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