家族の注目をひきたい?
同い年の夫、14歳の娘、10歳の息子と4人で暮らすシゲミさん(45歳)。夫は威張り散らすタイプではないが、子どもたちが大きくなるにつれ口うるさくなってきた。「特に娘にはうるさいですね。夫の職場が新宿にあるので、よく話題にのぼるトーヨコの少年少女を見かけることもあるようで、うちの子たちもこれからどうなるのかと不安に思っているみたい。でも娘は自我が発達して、口うるさく言われたくない年頃。つい説教っぽくなる夫のことはさりげなく避けています」
あからさまに反発はしないが、するりと逃げる。そんな感じらしい。娘から相手にされないと分かると、夫は説教をやめて「オレ、かっこいい」アピールをするようになった。
「それがまた謎なんですよね。そんなことをしても潔癖な年代の娘には『何やってるの』としか思われない。『お父さん、今日は部下の女性社員からやさしいって褒められた』なんて言うわけ。すると娘は『なにニヤニヤしてるの、キモい』と。夫は娘が反応してくれるだけでうれしいのかもしれないけど、中年オヤジのいやらしさを感じているんじゃないですかねえ」
モテアピールが「キモイ」
モテアピールは何のため、誰のためと夫に尋ねてみたが、「いや。事実を分かってもらおうと思っただけ」と夫は答えた。自分で自分をかっこいい、モテるとアピールするほど情けないことはないとシゲミさんは言う。「あれ、実はお母さんにアピールしてるんじゃないのと娘に言われましたが、それこそ『キモい』ですよ。おまえたちが思っているより、オレは女性にモテるいい男なんだと言いたいんでしょうけど、なんだか物欲しげ。夫なら、父親なら、もっとどっしり構えてなさいと言っておきました」
家族からの褒め言葉がほしい、家族から頼られたい、世間に出れば「いい男」なのだということを分かってほしい。つまりは夫の承認欲求なのかもしれない。「ちゃんと存在は認めているつもりなのに」とシゲミさんは苦笑いした。
妻に男として見てほしい
リエコさん(44歳)は、5歳年上の夫との間に、14歳と9歳の男の子がいる。息子たちは母親思い。家族で出掛けると、率先して荷物を持ってくれるのは息子たちだ。そんな彼らをリエコさんも無条件で愛し信頼している。「リエコの夫は僕だよねと、あるとき夫が言い出して。彼、息子に嫉妬しているんですよ。他人から見たらほほ笑ましいかもしれないけど、何かにつけて息子をライバル視するから私はうんざりしています。息子は父を超えていくものだし、女性に優しい子に育てたのはあなたの功績でもあるんだよと夫を持ち上げたけど、あまりピンときていないようでした」
男親は、自分の子なのに「その若さ」をまぶしく思い、嫉妬することがあるのかもしれない。あの頃の自分よりずっと輝いているように見える息子たちに。
「だったら外見も内面も負けないようにがんばればいいのに、夫は口だけなんです。『おまえたちにはまだ分からない大人の男の魅力がオレにはあるんだ』って言い放つ。私がつい吹き出してしまったら、あとから夫に叱られました。ああいうときに笑うなって。その顔がけっこうまじめで、さらに笑っちゃいましたけど」
本当は嫌われているのでは……
夫はもうじき50歳。このところ集中力や記憶力が落ちた、疲れやすいと愚痴も目立つようになっている。更年期かと医者に行くことを勧めたが、「オレは現役の男だ。医者に行くような問題はない」と見栄を張った。「半世紀も生きてくればガタが出るのは当然。『これからはメンテナンスをしっかりしないとね、お互いに』と伝えましたが、『きみは知らないだろうけど、これでも社内の女性人気はかなり上位なんだからね』とムキになっていました。そんなの投票で決めたわけでもないでしょうに、夫の思い込みでしょう。本当は嫌われているんじゃないかと少し不安になりました」
だいたいが、「いい年してモテるだのモテないだのと言っていること自体が不毛です」と妻は夫をバッサリ斬る。
「そんなところで頑張らないで、早く医者に行けと昨日も言ったばかりです。息子たちは複雑な思いで、父親を見ているみたい。ああいう男にはならないでねと言いたいけど、ぐっと抑えています」
どうしても捨てられないモテ幻想、そして男性性。妻の「情け」で、夫はなんとか体面を保てているのかもしれない。