スキルアップトピックス

理不尽クレーマーには「大声で反撃」!? カスハラ撃退術の極意を苦情クレームのプロが語る

「不良品だ、安く売れ!」と無理難題をふっかけるクレーマー……その狙いは一体? 怒鳴り声に屈せず、相手の嘘を見破り、毅然と対応する驚きのテクニックとは。※サムネイル画像:PIXTA

執筆者:All About 編集部

「たった5回で靴下に穴が空いた!不良品だ!」という理不尽なクレームにどう対応する?

「たった5回で靴下に穴が空いた!不良品だ!」という理不尽なクレームにどう対応する?  ※画像出典:PIXTA
 

「たった5回で靴下に穴が空いた! 不良品だ!」そんなクレーム、あなたならどう対応しますか? しかも相手は、実際の価格から値引きして1000円で売れと要求してくる始末……。実はこれ、巧妙なカスタマーハラスメント(カスハラ)かもしれません。その手口と、驚きの撃退法とは?

34年間百貨店のお客様相談室で1300件以上のクレームに対応してきた、苦情クレーム対応アドバイザー・関根眞一さんの著書『カスハラの正体 完全版 となりのクレーマー』から一部抜粋。一見すると正当なクレームのようで、実は悪質な「愉快犯タイプ」のクレーマーに遭遇した際の、具体的なやり取りと、そこから学ぶべきカスハラ対応の極意について紹介します。
<目次>

一見、営業マンのようなお客様だが……

あるとき、紳士雑貨売り場の販売員が靴下2足を持ち、お客様を伴い、私のいる相談室に来ました。

同伴のお客様、Iさんは40代。紺のスーツに茶革のアタッシェケースを持ち、営業マンらしくビシッと決めて、余裕の笑顔というより少しニヤけています。

それに比べ先導してきた販売員の表情は固いので、直感で「商品苦情だな」と思いました。

この時点で、せっかく対面できたのですから、どんなことがあっても納得していただき、今後も店を贔屓にしてくれるように対応を始めます。

私は、「いかがいたしましたか」と尋ねました。

「お前が説明しろ」と言って、Iさんは、その販売員に指示をしました。

販売員はこう説明を始めました。

「お客様がおっしゃるには、1か月半前にこのブランドの靴下を買ったそうです。そしたら、たった5回しか履いていないのに穴があいた、と。それは不良品だから、今日はこの靴下を1000円で売れ、とおっしゃいます」

話を聞いた私は、内心、「何をふざけたことを言っているのだ」と思いました。瞬間的に、「普通のお客様ではない」と判断しました。

私は、販売員に向かって尋ねました。

「この靴下の価格はいくらですか」

「1500円です」

愉快犯タイプのクレーマーだった!

さっそく、私とIさんとの、やりとりが始まります。

「それはご迷惑をおかけしました。お客様、履いたのは5回ですか」

「そうだ。5回しか履いていないよ」

実に落ち着いた話し方をする人です。

私は、首を傾げました。

「そうですか?……そんな例は、いまだ聞いたことがないのですが」

すると、Iさんはむっとした様子で、「本当だから話しているんだよ」

本来はここで、確認のためにいくつか尋ねます。

購入日はいつか。レシートはあるのか。なければ、当店で買った証拠はあるのか。こう聞いていくわけです。

しかし、やめました。

Iさんはどうやら愉快犯のタイプのクレーマーで、上手くいったら仲間に自慢話をするだけだろう、と判断して、面倒なやりとりは行わないこととしました。

問答は、続きます。

私「つかぬことをお尋ねしますが、(間を置く) ……靴下のどの部分に穴があいたのですか?」(ここではこの先どういう出方をしてくるかを、測っています)

Iさん「靴下の先だ」

私「先ですか……。(間を置く)では、穴のあいたのは先の上ですか下ですか」

Iさん「上だな」

私「そうなると爪と靴が当たったことも考えられますが、爪が伸びているようなことはありませんよね」

Iさん「まあ、そんなことは分からん。けれど、破れたことは確かだ」(先方がむかついてきたのを察知します)

私「そうですか?」

そこで、私はそばで黙っている販売員に、話題を振りました。

「そんなことは過去に聞いたことがない。事例はあるのか」

販売員も私という味方を得て、少し元気が出てきています。

販売員「そんな事例は、このブランド以外でもありません」

私「私も聞かないよな……」

「お客様!」と大声を出すタイミングとは

私は続けて、Iさんに言いました。

「お客様、お洗濯の仕方は特殊な方法なんていうことはないでしょうね」

Iさん「普通だ」(さらに苛立ってきたことが分かります)

私「その商品は、まだ保管してありますか」

Iさん「あるよ、家に」

私「そうですか。一度、見せていただけないでしょうか。商品を調べて、不良品であれば改良します」

Iさんは、こちらの、のらりくらりの対応に、ついにしびれを切らしたようです。いきなり大声を張り上げました。

Iさん「おい、こんな対応でいいのかよ! 靴下が破れて、迷惑したのは俺だ! 何をグダグダ言ってんだ」

こちらが待っていたタイミングですから、すかさず、

私「お客様、大きな声を出さないでください。普通の声でちゃんと聞こえておりますよ」

と、Iさんより大きな声で、相手の目を凝視して言いました。

驚いたのはIさんです。

まさか、百貨店のお客様相談室員に怒鳴り返されるとは、思ってもいなかったのでしょう。「鳩に豆鉄砲」とはこのことか、と思える顔をしました。

他の百貨店では、触らぬ神にたたりなしと決め、最初から交換で対応するか、この怒鳴り声に驚いて、「今回だけ」と値段を下げて販売した店も、たくさんあったのでしょう。

クレーマーがしどろもどろに

このときは、「たたみかけのタイミング」ですから、言葉を続けます。

まずは、大声を上げた非礼を詫びて、「お客様、現物を見せていただけませんか、検査をして正確な報告をします。商品に瑕疵があれば遡って対応を考えます」

物は最初からないはずだ、と踏んで私は言っています。

Iさんは、しどろもどろになりながら、「家にあると思うよ。まだ捨ててないと思うから確認するよ」

完全に動揺した様子でした。

「そうですか。それでは失礼ですが、お名前とご住所を教えていただけますか」と言って、私は相談用紙を提示しました。

「いいよ今日は。また来るから」

Iさんはもう立ち上がりました。

ここで簡単にたかりを逃がすわけにはいきません。二度と来させないためにも。

「それは困りますよ。お名前を聞いておかないと報告書が書けません」

「いいよ。また来るから」

私は、「それでは、その間、何も対応できません。ご迷惑をおかけしたお客様の住所が分からないのでは困ります」と、さらに突っ込みます。

Iさんは、「いいよ、いいよ。あったら持ってくるから」

「そうですか。よろしいのですか。でも、物がなければ、対応もしませんよ。それに、住所も氏名も教えていただけないのでしたら、今日の記録も残りません」(実際はしっかり書いておく)

「分かった」

Iさんは振り向きもせず、相談室を後にしたのでした。
  関根眞一(せきね しんいち)プロフィール
百貨店に34年間在職し、全国4店舗のお客様相談室を担当。こじれた苦情・やくざ・クレーマー・詐欺師等特殊な客を専門に1300件以上の苦情に対応した。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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