
AIの能力が人間の能力を大幅に超える時点は2045年?(画像出典:PIXTA)
近年の人工知能(AI)の発展は著しいものがあります。最近では生成AIが話題で、職場でもどんどん利用が広がっているのは読者の皆さんも体感されていることと思います。
シンギュラリティとは「技術的特異点」という意味で、AIの能力が人間の能力を大幅に超える時点を指します。未来学者のレイ・カーツワイルによると、2045年頃になるとされ、大前研一はこれに伴って第4の波(AI・スマホ革命を指します)が来るとします。
シンギュラリティに達すると定年は45歳くらいになる?
シンギュラリティに達すると人間の仕事のほとんどがAIとロボットに置き換えられます。恐ろしいところは、プロフェッショナルを含めた全てのホワイトカラーの仕事がなくなるということです。この点が第3の波※と異なる点です。情報革命においては、システムを作り、動かし、メンテナンスをするために膨大なエンジニアが必要でしたが、AIはそのような人たちを必要としません。※第3の波……農業革命(第1の波)、産業革命(第2の波)の次にやってきた情報革命を指します。アルビン・トフラーが命名しました。
おそらく定年は新しいことへの対応が難しくなる45歳くらいになり、あとはベーシックインカム(国民一人ひとりに無条件かつ定額で現金を給付する政策)をもらって退職後の人生を送ることとなるでしょう。それまでに、AIを使って生産性を上げる企業から徴税し、国民にベーシックインカムを配分する新たな社会制度を整える必要がありますが、それに向けた動きはまだ見えてきません。
一方で、介護・育児・経営などは人間にしかできないのでシンギュラリティ後も残るとする意見もあります。筆者は、介護・育児はAIとロボットの組み合わせ、経営はAI同士の組み合わせによる意思決定により意外とできてしまうのではないかと思っています。
そうなると、過度のストレスに起因する介護・育児現場における虐待事案は皆無になり、安全安心な介護や育児が実現するでしょう。仕事においてトラブルを招く「感情」というものを持たないAIの長所は侮れません。
AI革命は止めようがない
職場のAI革命の流れは止めようがありません。それは資本主義の力によります。資本主義社会では、全ての企業が競争にさらされています。AIを使って効率化を図り、従業員を減らせるなら企業は争って導入するでしょう。躊躇(ちゅうちょ)する企業は競争に負けて市場から撤退を余儀なくされてしまいます。これまでも資本主義の力は産業革命や情報革命を推進する原動力となり、新しい時代を切り開いてきました。AIについても全く同じことが起こるのは明らかです。
従業員サイドで何か対策が打てるでしょうか、今はやりのリスキリング(新しい知識やスキルの習得)程度では難しいでしょう。人間が食事をしたり睡眠を取ったりしている間もAIは学習できます。
AIを上回る創造力を持つ、選ばれたごくわずかな人間しか生き残れないと覚悟すべきでしょう。産業革命期のイギリスにおいては、ラッダイト運動という労働者による機械破壊の暴動が起きましたが短期間で鎮圧されています。
AI革命によって50代の貯蓄加速期が失われてしまう危険が
これまでは結婚して子どもをもうけたら、30~40代でローンを背負って家を買い、50代で住宅ローン返済や子どもの教育費のめどが立ち、貯蓄が加速して退職に備える、という人が多かったのです。これによって退職までに平均世帯において2600万円もの貯蓄を準備できました。下図の年代別貯蓄・負債の推移はそのことをよく物語っています。
出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2024年平均結果の概要(二人以上の世帯)」
住宅を買わずに小さな資本家になろう
このプロセスで誰が利益を得ているのでしょう。皆さんも既にお分かりのとおり資本家です。筆者が『株式投資はギャンブルではない?司馬遷とピケティ、2000年の歴史が物語る投資の意義って?』で述べたとおり、資本は過去2000年間にわたって安定した収益を上げてきました。今後もAI革命の推進力となることで収益を上げることは確実です。
こうしたことを踏まえるとこれまでの世代のように、若いうちにローンを抱えて家を買うことはおすすめできません。
家は賃貸でいいので、まずは若いうちから貯蓄に励み、株式を含めたグローバルな長期・分散投資で小さいながらも資本家の立場を獲得しておくのが、今を生きる若い人たちが取り組めるAI革命への最も有効な対応策であると筆者は考えます。
教えてくれたのは……
陣場 隆(じんば たかし)さん
京都大学法学部卒業、ペンシルベニア大学ウォートン校MBA、三井信託銀行入社、国際金融部、国際企画部、融資企画部付、年金企画部、年金資金運用研究センター出向、三井アセット信託銀行公的年金運用部次長、証券営業部次長などを経て2006年末に同社退社。2007年より年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に勤務。調査室副室長、運用部長、調査数理室長を経て2020年定年退職。GPIF勤務の13年間で、運用機関構成の決定や基本ポートフォリオの策定を統括した。GPIFを定年退職後「今を生きる若い人たちに向けて年長者の知恵を伝えたい」という気持ちが強くなってきたため、執筆活動を開始