心理カウンセラー・大嶋信頼さんの著書『最低限の人間関係で生きていく』では、部下やチームメンバーの視点に立って職場の人間関係を最低限にするための実践法を解説しています。
今回は本書から一部抜粋し、特に「苦手な上司」との間に適切な距離を作り、日々の業務におけるストレスを軽減する実践的な方法を紹介します。
自分が苦手な上司に正攻法の心理戦を仕掛ける
いくら苦手なタイプでも、自分の直属の上司であれば、日常的に関わらないわけにはいきません。「おそらく、手も足も出ないだろう」と考えがちですが、そんなことはありません。
上司に対して、正攻法の心理戦を仕掛ければ、苦手な上司とドライな関係になるだけでなく、相手の動きを封じ込めることができます。
その大前提となるのが、上司の思いを先回りしたり、忖度(そんたく)することをやめて、気持ち的に関わりを持たないことです。
仕事で関わらないことはできませんが、ムダに「気働き」をしなければ、それだけで上司に対するストレスは軽くなります。
ねちっこい「報連相」がもたらす意外な効果
その次に、「報連相」(報告、連絡、相談)を徹底することが重要です。徹底するといっても、報連相を欠かさずやるだけではありません。丁寧に、入念に、粘っこく、ねちっこく、上司が嫌がるくらい、何度も繰り返し報連相をやり続けるのです。
この戦法を、私は「嫌がらせの報連相作戦」と呼んでいます。
何らかのタスク(課された仕事)が上司から降りてきたら、まずは、「自分では、こうしようと思っていますが、どう思いますか?」と相談します。
上司から、「もっと、こうした方がいいだろう」と返ってきたら、「はい、ご指示の通りにいたします」と応じて、淡々とタスクと向き合います。
その結果、タスクで成果を上げたら、「お陰さまで、いい結果を出すことができました」と上司に報告します。
間違っても、自分の功績にはせず、上司の適切なサポートがあったからこそ、上手くいったことを強調して、相手を持ち上げておきます。
成果を出せなかった時はどうする?
上司は上機嫌になって、「最近、頑張っているね」などと言い出すかもしれません。この作戦のポイントは、タスクで成果を出せなかったときにあります。自分から上司に「タスクが失敗に終わりました」と報告する必要はありません。
自分で「上手くいかなかった」と言ってしまうと、自分の判断が間違っていたことになって、自分が責任を問われることになってしまいます。
報告する場合には、「ご指示に従って、その通りに忠実にやったのですが、こういう結果になりました。何か深い意図があってのご指示だったと思いますが、この後は、どのように対応すればよろしいでしょうか?」と相談に切り替えます。
上司を絶対に責めず、自分にも一切の責任がかからない形で、上司をジワジワと追い込んでいくのです。
最初の段階で、自分の提案を伝えていますから、上司が「指示待ちをするな」と言い出す心配はありません。
上司に対して、日頃から報連相をきっちりとやっている仕事熱心な部下が、「どうしたらいいか?」と前向きに相談を持ちかけているのですから、それに応えるのが上司の大事な役目なのです。
仕事ができる優秀な上司であれば、何らかの打開策を指示してくれますから、自分の仕事がラクになります。
仕事のスキルが低い上司であれば、悩み抜いた末に、「思った通りにやってみたら」と自分の責任を放棄して、こちらに丸投げしてくることになります。
仕事を丸投げされれば、苦手な上司との間に明確な距離を作ることができます。自分の裁量で、自分の思った通りに仕事を進めることが可能になります。
こうした状況を絶えず作り続けていけば、上司の余計な口出しがなくなって、ストレスなく仕事と向き合うことができるのです。
この作戦は、部下が上司をコントロールできる唯一の方法です。
粘り強く、したたかに、詰め将棋の要領で相手を追い込んでいけば、苦手な上司との人間関係を最適化することができます。 大嶋信頼(おおしま のぶより)プロフィール
心理カウンセラー、株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。FAP療法(Free from Anxiety Program 不安からの解放プログラム)を開発し、トラウマのみならず幅広い症例のカウンセリングを行っている。アルコール依存症専門病院、東京都精神医学総合研究所等で、依存症に関する対応を学ぶ。人間関係のしがらみから解放され自由に生きるための方法を追究し、多くの症例を治療している。カウンセリング歴31年、臨床経験のべ10万件以上。著書にベストセラー『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』(すばる舎)のほか、『無意識さん、催眠を教えて』(光文社)など多数。