職場のハラスメントやコンプライアンス違反の背景にある、深層心理のメカニズムを心理カウンセラーが分かりやすく解きほぐす『最低限の人間関係で生きていく』(大嶋信頼著)から一部抜粋。「謎の反抗心」の根底にある感情と、自分の能力を実際よりも低く考えてしまう「インポスター症候群」、自分を過大評価してしまう「ダニング・クルーガー効果」といった心理現象との複雑な関係を解説します。
優秀な上司ほど危険?
日本の企業では、パワハラやセクハラに対する意識が高まっていますが、コンプライアンス違反の言動にも、インポスター症候群や、ダニング・クルーガー効果が深く関係しています。職場の上司やチームリーダーがIQの高い人であれば、インポスター症候群を起こす可能性があります。
仕事ができて、謙虚な姿勢のリーダーであれば、上司として申し分のない存在に思えますが、こうした上司の下で仕事をしていると、メンバーが優越の錯覚を起こして、ダニング・クルーガー効果に陥る危険性が高まるのです。
チームのメンバーがダニング・クルーガー効果を起こすと、上司の能力やスキルを正当に認識することができず、本人の中で「嫉妬」の気持ちが高まることで、上司に対して反抗的になったり、他のメンバーや後輩にパワハラをするようになります。
本人には嫉妬の自覚がないため、人間関係が複雑化してしまうのです。
その一方で、上司やリーダーがダニング・クルーガー効果に陥ると、チームメンバーの能力を冷静に見極められなくなって、リーダー自身がマウントを取りに行ったり、パワハラに走ることもあります。
この場合も、本人に自覚はありませんが、「嫉妬」が原因です。
チームのメンバーが高いスキルを発揮して、仕事で成果を収めるのを目の当たりにすると、それを賞賛するのではなく、メンバーに対する嫉妬の感情が湧き起こって、脳が暴走してしまうのです。
ハラスメントの根源は「嫉妬」!
パワハラに代表される「ハラスメント」の背景にあるのは、「嫉妬」の感情です。たとえば、夫婦間のDV(家庭内暴力)は、妻のIQが夫を上回っている場合に起こることがほとんどです。
日本社会では、男性は女性より上、妻は夫より下……という時代が長く続いてきましたが、いまだにそうした古い考えを引きずっている人がいるのです。
夫の脳が妻のIQの高さを認識することで、「俺に養ってもらっているのに生意気だ」とか、「女のクセに偉そうだ」という嫉妬の感情が起こります。
普段は理性によって嫉妬の感情を抑え込んでいますが、嫌なことがあったり、酒に酔ったりしていると、理性が吹き飛んで、嫉妬が蘇ることによって、暴力に及んでしまうのです。
上司の場合も同じで、部下の方がIQや能力、スキルが高かったりすると、それを認識して嫉妬の感情を持つようになり、パワハラに走ってしまうことになります。
パワハラの根底には嫉妬があり、人は例外なく嫉妬の感情を持っています。
本人に嫉妬の自覚があれば、それを自分のエネルギーに変えることができますが、自覚ができない精神状態にあるから、パワハラをしてしまうのです。
周囲の人に対して、「生意気だな」とか、「気に入らないヤツだな」と感じたら、自分の感情に目を向けて、「自分は相手に嫉妬しているのかもしれない?」と考えてみることが、パワハラを未然に防ぐことにつながります。 大嶋信頼(おおしま のぶより)プロフィール
心理カウンセラー、株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。FAP療法(Free from Anxiety Program 不安からの解放プログラム)を開発し、トラウマのみならず幅広い症例のカウンセリングを行っている。アルコール依存症専門病院、東京都精神医学総合研究所等で、依存症に関する対応を学ぶ。人間関係のしがらみから解放され自由に生きるための方法を追究し、多くの症例を治療している。カウンセリング歴31年、臨床経験のべ10万件以上。著書にベストセラー『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』(すばる舎)のほか、『無意識さん、催眠を教えて』(光文社)など多数。