心理カウンセラー・大嶋信頼さんの著書『最低限の人間関係で生きていく』では、複雑な人間関係の謎を、脳の働きや深層心理から解き明かしています。
今回は本書から一部抜粋し、なぜIQの高い人がマウンティングされやすいのか、その背景にある「脳が相手のIQを瞬時に読み取る」という驚くべき現象と、心理学的なメカニズムについて紹介します。
面接で目撃したIQ135医学生の豹変ぶり
「人間の脳が瞬時に相手のIQをキャッチする」という不思議な現象について、私が遭遇した興味深いエピソードを紹介します。私のところに、就活の医学生が面接に来たときの話です。その医学生は、IQ135という優秀な若者で、朗らかで優しさを感じさせるタイプの男性でした。
面接を終えた彼が部屋を出て、待合室で順番を待っていた女性を見た瞬間、彼女を威嚇するような態度を示したのです。
穏やかな彼の攻撃的な態度に、私は呆気に取られてしまいました。
その女性が、何らかの挑発的な仕草をしたわけではありません。面接室から出てきた彼に軽く目を向けただけですが、彼は女性に対して、明らかに挑むような気配を見せたのです。
彼はなぜ、そんな行動を取ったのか?
私の推測では、彼の脳が彼女のIQを読み取って、瞬時に上下関係を判断したことで、「自分の方が上だぞ」と示すために、本能的にマウントを取りにいったのだと考えています。
彼女に確認してみると、IQは160といいますから、まさにギフテッドであることがわかりました。
彼の脳が瞬時に彼女のIQの高さをキャッチして、「相手が上で、自分の方が下」と判断したため、本能的に「自分の優位性を守りたい」という気持ちが芽生え、無意識のうちに身体が動いてしまったのだと思います。
高IQの人がマウンティングされるワケ
こうした行動を、心理学では「優越の錯覚」といいます。優越の錯覚とは、自分は他の人よりも優れていると錯覚して、自分のことを過大評価する心理的傾向を指します。
認知バイアス(考え方の偏り)の一種で、無意識的に発動する心の「防衛機制」と考えることができます。防衛機制というのは、困難や危機に直面したときに、不安や苦痛を軽減するために働く心理的メカニズムのことです。
彼が謎の行動に出たのは、脳が瞬時に彼女のIQの高さを認識したことで、本能的に自分を守ろうとしたのだと思います。そう解釈しなければ、朗らかな彼が、女性を威嚇する動機や必要性を、合理的に説明することができないからです。
現実問題として、IQの高い人が、どこに行っても人からマウンティング(自分の優位性を示そうとする言動や態度)をされるのは、日常的によくあることです。
それは脳が勝手に相手のIQをキャッチして、本人に自覚がなくても、無意識のうちに、自分の優位性を主張したくなる……という人間の本能に理由があるのです。 大嶋信頼(おおしま のぶより)プロフィール
心理カウンセラー、株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。FAP療法(Free from Anxiety Program 不安からの解放プログラム)を開発し、トラウマのみならず幅広い症例のカウンセリングを行っている。アルコール依存症専門病院、東京都精神医学総合研究所等で、依存症に関する対応を学ぶ。人間関係のしがらみから解放され自由に生きるための方法を追究し、多くの症例を治療している。カウンセリング歴31年、臨床経験のべ10万件以上。著書にベストセラー『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』(すばる舎)のほか、『無意識さん、催眠を教えて』(光文社)など多数。