今回は、厚生労働省の調査データをもとに、今どれくらいの企業に退職金制度があるのかを紹介しながら、制度がない場合にどんな備えができるのかを分かりやすく解説します。
退職金は法律で義務化されていない制度
「退職金は会社からもらって当然」と思っている人も多いかもしれませんが、実は退職金の支給は法律で義務付けられているものではありません。退職金はあくまで会社が自主的に導入する制度で、導入するかどうかは各企業の判断に委ねられています。
法律(労働基準法)でも、「退職金制度を設けた場合は、就業規則にきちんと内容を記載すること」と定めているだけで、制度の設置自体は義務ではありません。
また、全社員に支給する必要もなく、「勤続年数○年以上の人に支給」などの条件を付けることも可能です。
退職金がある会社、実は全体の4分の3ほど
厚生労働省による「2023(令和5)年就労条件総合調査 結果の概況」によれば、退職金制度がある企業の割合は全体の「74.9%」。つまり、約4社に1社は退職金制度がないということになります。企業の従業員数ごとの退職金制度がある割合は以下のとおりです。
・1000人以上の企業:90.1%
・300~999人:88.8%
・100~299人:84.7%
・30~99人:70.1%
これより、企業の規模が大きくなるほど、退職金制度がある割合は高くなる傾向にあります。
また産業別でも業種によっても差が大きく、「複合サービス事業:97.9%」「鉱業,採石業,砂利採取業:97.6%」「電気・ガス・熱供給・水道業:96.4%」と高い割合を示す一方で「宿泊業,飲食サービス業:42.2%」「サービス業(他に分類されないもの):54.4%」においては、約5割が退職金制度を持っていないという結果になっています。 「働けば退職金がもらえる」と思っていた人にとっては意外かもしれませんが、会社によっては制度そのものがない、または受け取れない場合があるという点に注意が必要です。
退職金をもらえる条件は、○年以上勤務した人からなどのように、企業によっても異なります。就業規則や退職金規程などで規定されているので確認しましょう。
退職金がなくても大丈夫!今からできる3つの備え方
「勤務している会社に退職金制度がない……」ということが分かると、将来に不安を感じる方も多いかもしれません。ですが、大丈夫。退職金がなくても、事前に手だてを考えておけば安心して老後を迎えられます。ここでは、誰でも始めやすい3つの備え方をご紹介します。
●退職金がない場合の備え1:まずは「家計を整えること」から
退職金がない場合は、老後に備えて自分で資金を準備する必要があります。その第一歩は、「少しずつでも貯金する」ことですが、その前に、毎月の家計を見直して使い過ぎを防ぐことから始めましょう。
家計の見直しの中で、特に大切なのは、通信費・保険・サブスクなどの「固定費」の見直し。ここを削るだけで、毎月数千~数万円を節約できることもあります。
ムダな支出を減らし、その分を将来のために貯金に回す。「限られたお金の中で、優先順位を決めて使う」習慣を身に付けることで、将来への不安が少しずつ和らいでいきます。
●退職金がない場合の備え2:iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)や個人年金を上手に活用する
将来の年金に不安がある人にとって、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)や個人年金保険は、老後資金を効率よく準備できる心強い仕組みです。これらの制度は、毎月一定額を積み立てておくことで、将来「自分年金」として受け取れます。
iDeCoは、掛金が全額「所得控除」の対象になり、所得税や住民税の負担を減らせるという大きなメリットがあります。節税しながら、老後資金も準備できる点が魅力です。
また、個人年金保険も「生命保険料控除」の対象になり、年末調整や確定申告で税負担を軽くする効果が期待できます。
●退職金がない場合の備え3:定年後も自分らしく働ける準備を
退職金がない場合、定年後も何らかの形で収入が得られると、経済的にも精神的にも安心感が違ってきます。
そこで、今のうちから「自分らしく働き続ける準備」を少しずつ始めておくのがおすすめです。
例えば、興味のあることを学んで資格を取るのは、将来の仕事につながる大きな一歩。医療・介護、語学、パソコンスキル、趣味の分野など、好きなこと・得意なことを伸ばせば、定年後の新しい働き方にもつながります。
また、本業以外の副業に挑戦してみるのも、定年後の収入源や自己実現につながる選択肢の1つです。「文章を書く」「イラストを描く」「動画編集ができる」など、自分の得意を生かして在宅でできる仕事も増えています。
ただし、副業をする際は、現在の勤務先の「就業規則」を必ず確認しましょう。最近では副業を認める企業も増えてきましたが、会社によっては副業が禁止または条件付きで許可されている場合もあります。トラブルを避けるためにも、ルールを守って安心して取り組むことが大切です。
自分の興味やスキルを生かしながら、将来の働き方を今のうちから考えておく。ポイントは、「退職してから考える」のではなく、元気なうちに少しずつ準備しておくことです。
将来の可能性を広げる意味でも、興味のあることにチャレンジする気持ちを大切にしていきましょう。