亀山早苗の恋愛コラム

“生活のための結婚”は「不純」なのか。未婚アラ還女性が婚活で経験した「絶望」とその後

母の介護のため40代で仕事を辞め、以後は母の年金で暮らしてきたという60歳女性。母が亡くなり、経済的な不安、孤独への不安が押し寄せてきたという。そこで最後の婚活に踏み出し、マッチングアプリで知り合った男性とデートにこぎつけたのだが……。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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生きるために結婚したいと思ってはいけないのだろうか

生きるために結婚したいと思ってはいけないのだろうか

経済的な不安、孤独への不安、年をとると不安だらけだと言う年配者は多い。自身が財産を持っていれば別だが、「年金額を考えると、とても生活できない」という実態もある。

まずは生きるために

「私の場合は経済的不安から、最後の婚活に踏み出しました。もちろん、一緒に生活して楽しい人でなければとは思うけど、まずは生きるために結婚したかった」

そんな悲壮な覚悟を明かすのは、ヨリコさん(60歳)だ。彼女は未婚のまま仕事をしてきたが、44歳のとき父が亡くなった。その後、母が病に倒れ、後遺症が残ったため、とうとう仕事を辞めざるを得なくなった。それが47歳のとき。それからは母の年金だけで細々と暮らしてきたのだが、その母が88歳で亡くなったのが2年前だ。

「あわててパートに出ましたが、とてもじゃないけど暮らしていけない。私には兄がいますが、まったく母の看病もしなかったくせに『財産は全部おまえにやるから、ありがたいと思え』と。財産なんてないのが分かっていながら、そういうことを言う。少し援助してほしいと言ったら、家を売ってどこかに行けばいい、と。でもここは借地で、家だって築50年近いぼろ家。売れるはずもない」

親戚から少し援助してもらいながら、爪に火をともすようにして暮らしてきたが、この先を考えるとどうにもならなかった。65歳になれば月に10万ほどは年金が出るはずだが、それまでどうすればいいのか……。

「今までの人生でし残してきたことを考えると、結婚だったんですよ。結婚して生活が安定して、なおかつ老後が寂しくないなら最高だと思った。でも結婚相談所に入るゆとりはないので、マッチングアプリを試しました」

安定した穏やかな暮らしができるなら、それ以上は望まなかった。何人か候補を見つけてやりとりしてみるが、会うところまではいけない日々が続いた。

生活の手段としての結婚はいけないのか

「久しぶりに仕事をしてみたら、本当に疲れちゃって。だから結婚したかった。パート先の知人にそんな話をしたら『不純だ』と言われました。生活のための結婚って、そんなにいけないことなんでしょうか」

数カ月かけて、ようやくデートにこぎつけた8歳年上の男性とは意外と話が合った。「今どき、謙虚ですてきな女性だと思いました。これからもデートしてもらえませんか」と言われ、ヨリコさんは数十年ぶりに胸がときめいたという。

「生活よりときめきだとも感じました。ずっと母と二人で質素に暮らしてきたから、心がときめくことなんて忘れていたんですが、私の中にも恋をする力が残っていたんだと分かってうれしかった」

ところが彼とデートを重ねるにつけ、彼の体力のなさが気になっていった。健康だしスポーツもやっているとプロフィールには書いてあったのだが、どうやら運動などしていないようだし、経済的にゆとりがあるように言いながら、実はそうでもなさそうだった。

食事デートで連れていかれたのは

「食事をしようということになったとき、彼が提案したのはファストフードの牛丼でした。女性を食事に誘うのに、そういうところを提案します? しかも割り勘だった。彼に恋心を抱いた自分を呪いたくなりました(笑)」

もちろん、彼とはそれきりになったが、自分が低く見られたことに対して彼女は怒りと失望にさいなまれた。だが怒りがおさまって考えてみると、「私自身、怒れるほどの価値がある人間ではないと分かった」と言う。

「高卒で働いて、特に趣味も特技もなくて……。私自身がつまらない人間だったんです」

その後、落ち込む彼女をパート先の人たちが支えてくれた。社内のカウンセラーにつなげてくれてカウンセリングも受けられるようになった。

「母が偏屈な人だったので、亡くなるまでケアマネとかともつながっていなかったんです。だから私自身も人に頼ることができなかった。でも働き始めてそれほど長い期間がたっていない勤務先で、あんなに親切にしてもらえるなんてと感激しました」

一人で暮らせる収入を確保した結果……

その結果、彼女はパートの時間を増やした。勤務先が家事代行の仕事もしているので、清掃と家事代行で「働きまくって」いるそうだ。一人で暮らしていけるだけの収入を確保し、時々同僚と飲みに行くこともできるようになった。

「『このアプリならいけるかもよ』とシニア婚活アプリを紹介してくれた同僚もいますが、それはもう少し先になってから考えることにしました。今はとりあえず一人の生活を楽しもうと思っています」

「結婚」という言葉の響きが、自分のような未婚シニアにとってはキラキラすぎるのだとヨリコさんはつぶやいた。

「一度も結婚したことがないと、結婚の実態が体感としてつかめない。だから少女のように王子様がやってくるような感覚で結婚を見てしまうのかもしれません。自分のそんな未熟さにも気付きました」

少し照れたようにそう笑ったヨリコさんが、とてもかわいらしい女性に見えた。
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