過干渉のラインはなぜ難しいのか
親子関係に限らず、人と人が付き合う上で、コミュニケーションの難しさは避けられません。それは人間関係の根本的な課題です。なかでも過干渉の難しさは、どこからが「やりすぎ」なのか、はっきりとした線引きがないことにあります。何が過干渉にあたるかは、干渉する側とされる側の感じ方に大きく依存するためです。親の善意からの行動も、子どもには全く違った伝わり方をすることがあります。
これは、同じ言動でも、ある人には許容できても別の人には深刻な問題となるハラスメントの問題と似ています。つまり、過干渉かどうかは、関係性や個人の受け止め方、そのときの状況によって異なる、とても曖昧なものなのです。
ですが、こうした難しさの背景にある、過干渉の「本当の意味」や本質的な問題を探るヒントが、コーチング理論の中に見つかります。
過干渉=恐れの量×否定の量
過干渉になりやすい人の特徴として、以下の2つの要素が挙げられます。1. 恐れの量
親側の視点から見ると、過干渉かどうかの1つの指標は「恐れの量」です。子どもの将来に対する漠然とした不安や心配が大きければ大きいほど、過干渉になりやすい傾向があります。
例えば、「子どもの将来が心配だから」という思いが大きいと、手を貸したり、助けたりしようとする気持ちが強まります。反対に、「子どもの人生は何とかなるだろう」という考えが根本にあれば、干渉する度合いは自然と下がるでしょう。
重要なのは、同じ言葉でも背景にある恐れの量によって、過干渉かどうかが変わってくるということです。例えば「早く宿題をやりなさい」という同じ言葉でも、「ちゃんと勉強していい成績を取り、いい大学に行かないと幸せになれない」という恐れが強い場合と、「まあ何とかなるだろう」という軽い気持ちで言う場合では、その言葉の重みが全く異なります。
2. 否定の量
もう1つの要素が「否定の量」です。これは、自分が持っている価値観や考え方の中で、「~してはいけない」「~であるべきだ」という否定的な思い込みの強さを指します。
例えば、「将来安定した職に就かなければいけない」という考えは、裏を返せば「不安定な仕事や収入」を否定していることになります。「しっかり宿題をやりなさい」という言葉も、宿題を忘れることへの否定が強ければ強いほど、過干渉になりやすくなります。
「いい大学に行かなければいけない」「習い事は続けなければいけない」といった考え方も、それぞれ「レベルの低い大学」や「途中で諦めること」を否定していることになります。このような否定の量が多ければ多いほど、過干渉につながりやすいのです。
恐れの量×否定の量=動揺の大きさ
過干渉は、「恐れの量×否定の量=動揺の大きさ」という簡単な式でも表すことができます。この動揺がストレスとなり、そのストレスから来る言葉がけや行動が過干渉につながるのです。子どもの将来に対する恐れが大きく、同時に多くの否定的な思い込みを持っていると、親は動揺し、結果として過干渉的な行動を取りがちになります。
過干渉を減らすためにできることは?
では、過干渉を減らすために、私たちには何ができるでしょうか。恐れや不安を手放すことは可能ですが、一朝一夕にはいきません。「これをやれば不安が消える」といった単純な方法ではなく、時間をかけたトレーニングが必要です。
一方、比較的短期間で取り組めるのが、「否定の量を減らす」ことです。自分が持っている否定的な思い込みや信念(メンタルブロック)に気づき、それを手放す努力をすることができます。
例えば、不登校の子を持つ親の例を考えてみましょう。学校に行かないことや行かせられないことを強く否定している親は、子どもの不登校に対して大きな苦しみを感じます。しかし、「学校に行かないこと」への否定を手放すことができれば、親自身のストレスも減り、結果として子どもへの過干渉も減っていくでしょう。
否定を手放す具体的な方法
否定を手放す方法の1つは、否定している事柄の「逆側」を見ることです。・デメリットばかり見ているなら、メリットは何かを考える
・悪い点ばかり見ているなら、良い点は何かを探す
このように視点を変えることで、否定的な思い込みから自由になっていくことができます。
例えば、「子どもが学校に行かないと将来困る」という思いがあるなら、「学校に行かないことで得られる経験や学びはないか」を考えてみることが大切です。または「いい大学に行かないと成功できない」という思いがあるなら、「大学以外の成功の道はないか」「成功の定義とは何か」を問い直してみることも有効でしょう。
自分のメンタルブロックに気づくことが第一歩
子育てにおける過干渉の問題は、親側の問題、特に「恐れの量」と「否定の量」に大きく関わっています。これらに気づくことが、過干渉を減らすための第一歩です。自分が子どもの将来について何を恐れているのか、そして何を否定しているのかを理解することで、初めて変化への道が開けます。そこから先は、コーチングやその他のプログラムを通じて、具体的なアプローチを学んでいくことができるでしょう。
過干渉の問題は子育てだけでなく、あらゆるコミュニケーションに関わる問題です。自分自身の恐れと否定に向き合い、それらを手放していくことで、より健全な関係を築いていくことができるのです。
子どもの可能性を信じ、自分自身の恐れや否定を少しずつ手放していくことで、親子関係はより豊かなものになっていくでしょう。