ただ、ライブ会場での痴漢被害は今に始まったことではない。2010年ごろにはMORTAR RECORDの山崎やすひろ氏の投稿をきっかけにTwitter(現・X)で議論が行われたり、BRAHMANやELLEGARDEN・細美武士氏などのアーティストがライブ中に起きた痴漢に対して声明を発表したというケースもあった。
今もなくならない痴漢被害に、私たちはどのように向き合うべきであろうか。
「みんなが見ています」ライブ会場で生まれたSOSのシグナル

ライブ中にできるSOSアクション※画像出典: こやまたくや(ヤバイTシャツ屋さん)公式X
ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくや氏が2025年1月24日に自身のXで、ワンマンライブ中に客への痴漢被害があったと告白。その際に「昨日はライブ中にこの赤いSOS画面をステージに向けてくれた方がいて、客席で問題が起きている事に気がつく事が出来ました」と述べている。
このSOSの画像は2024年に同バンドがライブ会場で痴漢被害があった際に、打首獄門同好会の「取り急ぎウチではそういう場合『スマホを上に掲げる』をやってみてください」という引用リポストにインスパイアを受けて制作されたものだ。こやま氏は「この画面、ステージからでも凄くよく見えました」とコメントし、「絶対にライブハウスから痴漢を撲滅します。みんなが見ています」と加害者に向けて警告した。
3月20日にキュウソネコカミが開催した音楽イベント「極楽鼠浄土」でも、このSOS画像の使用が推奨されていたのは記憶に新しいところ。加えて同イベントでは「清水音泉ぶっとばす」の歌詞を引用した「痴漢した奴は数年後に死にます!!」というメッセージが転換中のモニターに映し出されて、SNSで盛り上がった。
なおこのメッセージは、曲のタイトルにもなっている清水音泉が主催する音楽フェス「OTODAMA~音泉魂~」で、以前から転換中にモニターで映されていたメッセージであることも付け加えておく。
重要なのは「周りを気にしないこと」と「拡散」
だがSOS画像のことを知っていても、ライブ中にスマホを上げられないという人もいるかもしれない。ライブ中に痴漢された体験談の中には、自分のせいで演奏が止まってしまうと思い助けを求められなかった、とする声もあった。しかし、多くのアーティストは「演奏中でも知らせてほしい」と呼び掛けている。ファンが悲しい思いをすることのほうが、演奏が一時中断することよりもずっと大きなダメージだと考えているからだ。痴漢はライブの雰囲気を壊す以前に、「止めるべき非常事態」である。その意識を持ってライブに臨むことが、被害の防止につながるのだ。
また私たちにできることとして「広めること」も重要である。今回のSOS画像や事例を見て、「そんなの当たり前」と感じた人もいるかもしれない。だが、自分の“当たり前”が他人の“当たり前”とは限らない。SNSから距離を置いている人もいれば、情報を知っていても忘れてしまう人もいる。だからこそ、ライブや音楽イベントに行く友人や知人に、こうした情報をさりげなく共有していくことも、大きな啓発につながるはずだ。
もちろんアーティスト、ライブハウス、イベンター側にも「痴漢は犯罪です」と加害者側へのメッセージを発信するだけでなく、具体的な通報方法や支援の体制を提示することが求められているのも事実である。「みんなが楽しめるライブ空間」を守るために、一人ひとりが意識を持ち、行動していくことが、何より大切なのではないか。
<参考>
posfie「【痴漢、ダメ絶対!】ライブハウス内で起こる事件から考える意識や対処方法等について」
こやまたくや(ヤバイTシャツ屋さん) 公式X
打首獄門同好会 公式X
清水音泉 公式X
【この記事の筆者:マーガレット安井】
フリーライター。関西圏のインディーズバンド、ライブハウス、ミニシアターなどの取材を主に行う。ANTENNA、Real Sound、Skream!、Lmaga.jp、ニュースクランチ、ぴあ関西版WEBなど多数のメディアで執筆。