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松坂桃李『御上先生』で話題の「霞が関文学」 官僚の奇妙な言葉遣いは「103万円の壁」との深い関係も…(4ページ目)

日曜劇場『御上先生』(TBS系)で御上孝の発する“奇妙な言葉遣い”が話題になっています。「ぼくの記憶が確かなら」「不徳の致すところです」……など、これらの表現は霞ヶ関文学、永田町文学などと呼ばれています。これらは一体何なのか解説します。※サムネイル画像出典:TBSテレビ 日曜劇場『御上先生』 Webサイト

松井 政就

執筆者:松井 政就

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「仮定の質問には回答を差し控えます」は政治家としての存在意義の否定

もう1つ例を挙げましょう。それは「仮定の質問には回答を差し控えます」という永田町文学です。これは政治家としての存在意義を自ら否定するものです。

政治家、とりわけ大臣や首相クラスの役割は、この国や社会がこの先どのような事態に見舞われるかを予見し、それに対して的確に対処するため、その準備をいかに前もって講じていくかという危機管理に尽きると言えます。それを国民に伝えるのは政治家の基本的な仕事です。

その点で、仮定の質問への回答を差し控えることはその役割を放棄するわけですから、政治家にあるまじき発言と言えます。

2025年、石破茂総理がアメリカのトランプ大統領と共同記者会見に臨んだ際、質問に対して「仮定の質問にはお答えを差し控えます」と述べ、トランプ大統領が「ワオー!」と声を上げて驚きました。さすがのトランプ氏も、内心「こんな逃げ口上があったのか!」という意味で声を上げたと見るべきでしょう。
 

官僚文学と永田町文学の共通点

これまでいくつか例を挙げましたが、官僚文学と永田町文学は似ています。使われる目的がほぼ同じなのですからそれも当然です。

共通点はざっと次のようなものです。
・追及をかわす
・責任を回避する
・逃げ道を残す
・言質を取らせない

国会議員は業務遂行に必要な情報を得るため、官僚からレクチャーを受けますが、そもそも持っている情報の多さは官僚が圧倒的です。そのような人から話を聞くうち、よほど強靱な精神の持ち主でない限り、官僚の影響を受け、考え方を変え、言うことが似てきます。新進気鋭の政治家として永田町に乗り込んだはずの国会議員が、気付けば官僚そっくりのことを言うようになる例は枚挙にいとまがありません。
 

「年収103万円の壁」の引き上げを打ち砕いたのも官僚文学

昨年から今年にかけ「年収103万円の壁」の引き上げが問題になっていました。国民民主党の求める「178万円への引き上げ」を与党(自民・公明)がどこまで飲むか、期待する国民も多くいましたが、それは1つの官僚文学によってあっさり打ち砕かれました。

国民民主党の求める「178万円への引き上げ」に対し、与党側は「178万円を目指す」と記載しました。「178万円にする」とは一切書かず、「目指す」とだけ記載しました。東大を目指すだけなら誰でもできますし、ノーベル賞だって目指せます。「目指す」とはそういう意味で、何の約束にもならないのです。

これぞまさに官僚のお家芸であり、官僚文学の真骨頂です。
 

『御上先生』の脚本の素晴らしさ

最後にこれら官僚文学や永田町文学に人々の興味を向けさせた当ドラマについて付記しておきます。

ドラマの中で御上孝が「エリート」とは何かについて語るシーンがあります。

御上はこう言います。

「本当のエリートとは、自分の利益のためではなく他者や物事のために尽くせる人、つまり弱者のために行動できる人である。キミたち(生徒)はこのままではただの上級国民予備軍にしか過ぎない」

筆者は、このセリフは現代の官僚に対する痛烈な批判となっていると考えます。

また奥平大兼演じる生徒の神崎拓斗が、日本特有の記者クラブの弊害について語るように、当ドラマは教育を題材としながらも、官僚制度がもたらしてきた日本の問題点、日本社会の暗部をあぶり出す大変な秀作となっています。

ストーリーの面白さのみならず、社会をえぐるシナリオを書いた脚本家・詩森ろばさんに敬服します。

<参考>
TBSテレビ 日曜劇場『御上先生』 Webサイト

>次ページ:霞が関文学で謝る御上先生
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