子供の教育

真面目すぎる学校のリーダーが“ふきこぼれ教員”になるまで。安定を捨てて挑む、元教員の「教育改革」

「ふきこぼれ教員」と呼ばれる、教育を改革したいという思いで学校を離れる教員たち。筆者が主宰するコーチング塾には、そのような元教員も多くいます。今回はその中の1人、学校教育と福祉をつなぐ事業を立ち上げた相澤勇佑さんを紹介します。

坂田 聖一郎

執筆者:坂田 聖一郎

子育て・教育ガイド

筆者は、「教育に革命を起こしたい!」という思いのもと、教員を退職し、コーチングという対人支援を通じたビジネスを立ち上げました。しかし、筆者が退職した2020年当時、周囲の教員を見渡しても、そのような人はほとんどいませんでした。それが最近では、教育を改革したいという思いで学校を離れた教員を指す言葉として「ふきこぼれ教員」という表現が使われるようになってきています。

筆者が主宰するコーチング塾には、そうした「教員を辞めて、別の形で教育に携わっていきたい」「独立したい」という教員が集まってきます。一般的には、教員という仕事は安定しており、専門的であるがゆえに、転職や起業をする人は決して多くはありません。しかし教員は、能力が高く、真面目な人が多いため、教員経験を生かした次のキャリアを描き、実現することも十分可能です。

今回はその一例として、学校教員を退職し、教育と福祉をつなぐビジョンの実現に向けて、地元・札幌で起業したANCHOR New-Educationの相澤勇佑さんを紹介しましょう。
ANCHOR New-Education代表取締役社長 相澤勇佑さん

ANCHOR New-Education代表取締役社長 相澤勇佑さん

サッカー少年が「教員になりたい」と思った理由

相澤さんは中高生の頃、Jリーガーを夢見て、サッカーに打ち込んでいました。クラブチームに所属し、プロを目指して努力を続けていましたが、ケガに見舞われ、夢を諦めざるを得なくなったそうです。

そのときに、クラブチームと学校生活の両立をサポートしてくれた先生たちの存在が、自分にとって大きかったことに気付きます。「試合の応援だけでなく、落ち込んだ気持ちを受け止めて励まし、学業にも前向きになれるように導いてくれた先生の姿が、自らのキャリア選択に影響を与えてくれました」と相澤さん。その経験から、「自分も誰かの支えになりたい」と思い、教員の道を選んだと言います。

学校教員として働く中で感じた違和感と転機

教員として子どもたちと向き合う日々は充実していたものの、次第に「教育とは何か、本当にやりたいことは何かを考えるようになった」と相澤さん。「学校という枠の中でできることには限界があると感じるようになった」と語ります。これは筆者が教員だった当時に抱いた感覚と似ています。
教員時代の相澤さん

教員時代の相澤勇佑さん

相澤さんの転機は、38歳の頃に研究部長として学校全体の教育の方向性をリードする役割を担っていた時。全ての学級に特別支援教育を導入しようと試みる中で、療育施設に通う児童との関りを通して、福祉と教育の間にある大きなギャップに気が付いたそうです。療育施設とは、障害(発達障害含む)のある子どもの発達を支援する施設です。

「障害のある子どもたちを支える療育施設の職員たちは、学校教育に不満を抱えていることが多く、その一方で、多くの教員は福祉の世界に関心を持っていませんでした。このまま教員を続けていては、この課題を解決することはできない」と考え、教員を退職することを決意。そして、療育施設を立ち上げ、教育と福祉の橋渡しをすることを目指したそうです。

教員を辞めて気付いた、「学校の外」の世界を知らない自分

教員を辞めて、まず携わった療育施設の仕事を通じて、多くのことに気付いた相澤さん。

「公立学校では生徒が自然に集まりますが、民間の世界では“人を集めること”から始めなければいけません。予算の心配をすることもありませんでしたが、民間では常に資金のことを考えながら運営しなければなりません。それに、教員時代は“全て自分でやる”ことが当たり前でしたが、民間、さらには経営者を目指す立場としては“人に任せる力”が不可欠であることを痛感しました」と振り返ります。

また、子どもの家庭の背景を深く理解することの大切さも実感したそうです。「教員時代は学級経営をしやすいように、『学校のルールはこうです』と画一的な条件を伝えてしまっていました。しかし、療育施設では、多様な家庭の背景や事情があることが見え、一方的な教育ではなく、一人ひとりに寄り添う支援が必要だと気付きました」と話します。
放課後デイサービスでの相澤さん

療育施設で働いていた頃の相澤勇佑さん 

さまざまな経験こそがキャリアの可能性を生む

新しい世界に飛び込んでからは、「自分自身の視野を広げることがいかに重要かを学んだ」と相澤さんは語ります。

筆者がコーチング塾を通じて、受講生の人生をサポートする上で伝えているのは、「両極をやってみよう」ということ。片方の体験では見えなかったことが、両極の体験をすることで見えるようになり、世界が広がります。そうすると、自分にとってよりよいバランスを取れるようになるのです。

相澤さんも、学校の教員という立場と、民間の福祉サービス提供者という立場を経験したからこそ見えてきたことがあるのでしょう。これら両極の経験が、夢を実現するための大きな支えとなるはずです。
放課後デイサービスの子どもとじゃれ合う相澤さん

療育施設の子どもとじゃれ合う相澤勇佑さん

両極をやってみる方法は、キャリアチェンジのみならず、身近なことでも可能です。筆者がメンターとして相澤さんにフィードバックしたのは、「もっと遊びなさい」ということでした。

特に教員は、真面目過ぎる人が多く、相澤さんはその典型でした。その殻を破るために、普段なら絶対にやらないパチンコにも挑戦したそうです。最初はパチンコのやり方も分からず、全く楽しめなかったそうですが、周囲の人々が熱中している姿を見て、「自分のできないパチンコをできること、そしてパチンコで自分自身を楽しませることができる人に尊敬の念が生まれた」と言っていました。

教員がキャリアチェンジを考えたとき、既存の自分の経験や価値観に縛られず、さまざまな世界を知ることが大切です。いろいろな経験をしているからこそ、多くの人に寄り添えるのだから。

これからの教育には、学校だけではなく、福祉や地域社会との連携が欠かせません。相澤さんは、教員として培った経験と、コーチングの知識を生かし、子どもたちや保護者がそれぞれの状況に合ったサポートを受けられる環境をつくっていきたいと考えています。そして、教育の枠を超えて、より多くの子どもたちに持続的な支援を届けられるように、挑戦を続けていくとのことです。

相澤勇佑さん プロフィール
株式会社ANCHOR New-Education 代表取締役。大学卒業後、特別支援学校教諭として勤務。病棟教育で医療的ケアが必要な児童の教育にも携わる。その後、小学校で1~6年生までの全ての学年の担任を経験。2年間は特別支援学級の担任も経験した。教員退職後、札幌市の児童発達支援・放課後等デイサービスで児童発達支援管理責任者として、子どもの個別支援計画の立案、児童指導員への指導、経営戦略に携わる。現在は、教育コンサルタントとして、教育と療育の2つの視点から障害のある子どもへの家庭生活や学校生活における困りごとに対してのアドバイスを行う事業を展開。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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