卒業文集廃止。背景の1つに教員の働き方改革が
将来の夢や学校生活の思い出などをつづる卒業文集。子どもたちの卒業を祝う文化の1つとして長年存在してきたこの記念品を、廃止する小学校が出てきています。背景の1つにあるのは、教員の働き方改革。神戸市教育委員会で学校教育課課長を務める坂田仁さんは、「学校により異なりますが、卒業文集は、教員が指導計画を立て、6年生の11月から翌年1月下旬にかけて6時間から10時間程度の時間をかけて作成しています」といいます。
「テーマを決めて、子どもたちが下書きした内容を添削したり誤字脱字をチェックしたりする。その後、清書を経て、同じ学年の担任同士で交換して内容を確認し合い、校長・教頭が最終点検をするというプロセスが一般的です。この添削や確認のために、子どもたちや教員が休み時間や放課後の時間を費やすこともあり、教員にとっては残業時間増加の一因になっていました」(坂田さん)
教員の長時間労働が課題となる中、神戸市教育委員会では、事務局と学校現場の関係者で議論を重ね、働き方改革を進めています。
「学校主体で行う働き方改革の取り組みの1つに、『卒業文集の在り方の見直し』を挙げました。具体的な取り組みは各校長の裁量ですが、卒業文集を廃止した学校、廃止の検討を進めている学校が増加傾向にあります。今は、文部科学省が2020年から始めた、小学校から高校までの活動を記録する『キャリア・パスポート』があります。これは“学校生活の記録”ですから、卒業文集の代わりとして活用することもできるため、こちらに移行する流れもできつつあります」
保護者有志が卒業文集を作る取り組みも
「先生方のご負担の軽減に加え、『子どもたちが“ありのままの今”について書いた卒業文集を作りたい』という思いから、保護者有志で卒業文集を作っています」という学校もあります。東京都内のとある公立小学校のPTAでは、これまでPTA活動と認識されていた「卒対」(卒業対策委員会)を廃止し、卒業学年の保護者有志による自主的な活動に変換。
「理由は、卒業対策委員会の『対策』という言葉自体がお祝いの場にそぐわず、強制的なイメージがあったためです」というのは、卒対廃止を提案し、「卒業文集係」を務めるKさんです。
管理職の先生、6年生の担任の先生方に「保護者有志で卒業文集を作りたい」と相談したところ、「全面的にお任せします」という回答が得られ、Kさんを含む3名の保護者で取り組むことになりました。
「卒業文集のコンセプトは『自由』。タブレットを活用し、B5サイズ1枚に収まるように自由にページを作ってもらいます。タイトルと名前を書く位置を定めた以外は、将来のこと、中学校でやりたいこと、今熱中していることなど何を書いてもOKとしました。もちろん、イラストや4コマ漫画もありです」(Kさん以下同)
2024年11月、文集係3名で学校に出向き、各クラスでテーマや文章、書き出しの例を共有したり、友達同士での話し合いを促したりしながら文集制作を開始。
先生方に原稿の内容確認はお願いせず、保護者へのお便りを通じ、各家庭で子どもが書いた文章の誤字脱字チェックや言葉の言い回しの修正をお願いしたそうです。
「完成した文集は、卒業式当日に配布する予定です。子どもたちそれぞれが “今”をリアルに表現した文集を、卒業の余韻が残るうちにじっくり読んで楽しんでもらえればと思っています」
教員の負担を減らしつつ、子どもたちの思い出を残すという点で、保護者主導の卒業文集は、1つの有効な手段と言えるかもしれません。
「100人いれば100通り」の卒業アルバムが作れる時代
1冊2万円前後と高価ながら、卒業記念品の鉄板として根強い存在価値を保つ卒業アルバムの形も、変わりつつあります。前出の神戸市教育委員会・坂田さんは、「神戸市では、卒業アルバムは主に学校の教職員が作成を担当し、業者と協力して進めています。近年は、写真掲載に関して配慮が必要な子どもたちが増加傾向にあり、都度教員が個別対応しています」と言います。
働き方改革の観点からも、卒業アルバム作成業務の適正化・負担軽減を掲げ、「委員会活動や部活動の写真撮影の見直しや撮影日の縮小など、業務削減のための取り組みが行われています」(坂田さん)
いっぽうで、卒業アルバムの「作り方」に進化のきざしも。
全国規模で年間約100万冊、9000校の卒業アルバムを制作しているダイコロが提唱するのが、「卒業アルバムのパーソナル化」です。
「卒業生一人ひとりに焦点を当て、卒業アルバムを個別化するものです。例えば、100人の卒業生がいれば、最初の見開き2ページ全面に児童生徒1人だけが写った100種類の異なる写真を掲載します。一人ひとりが好きなポーズや衣装でポートレート撮影することで、興味や活動に合わせた内容となります」と、同社代表取締役社長の松本秀作さん。
クラス全員の顔写真が証明写真を並べたように掲載され、修学旅行や運動会などの行事写真が盛り込まれる従来の卒業アルバムとは一線を画し、一人ひとりの個性がみえるバラエティーに富んだ構成が、学校担当者や保護者から好評だそうです。
さらに、「印刷版と併用で、スマートフォンやタブレットで見るデジタル卒業アルバム『卒アルモバイル』の制作にも対応しています。デジタル形式により、校歌やBGMなどの音楽、先生や友達からのメッセージなどの音声、動画の収録も可能で、スマホ画面を横スクロールして途切れることなく見ていき、レイアウト上の選択した写真を自分の好きな写真に入れ替えてカスタマイズすることもできます。最大5アカウントまで共有可能で、遠方に住む祖父母にアルバムを見てもらうことも可能です」(松本さん)
これまでは“記録”的な役割があった卒業アルバムですが、これからは多様なニーズに応えることができる、パーソナルな形が注目を集めていきそうです。
卒業文集や卒業アルバムは、子どもたちの学校生活の思い出を記録する大切な記念品。従来のカタチにとらわれず、学校が、保護者が、それぞれの意義を問い直し、地域や学校の実情に合わせて思い出に残る形を模索していくタイミングなのかもしれませんね。