今回は「駅西エリア(JR名古屋駅西側エリア)」をフィーチャー。名古屋在住の筆者が実際に歩きながら、街の特徴や見どころ、楽しみ方などを詳しく紹介します!
<目次>
名古屋駅、西と東で異なる街の雰囲気
旅行などで名古屋を訪れる人たちのほとんどがまず降り立つのが名古屋駅。新幹線、JR在来線、名鉄、近鉄、高速バス、地下鉄が乗り入れ、名古屋観光の起点となります。 このとき、名古屋の街へと繰り出す人の大半は、JR名古屋駅東側の桜通口を利用します。名古屋城、栄、大須などの主だったスポット、エリアはそろって駅より東に位置し、これらの場所へのアクセスにも便利だからです。また駅前の超高層ビル群もすべて東側に集中していて、桜通口側から望む景観は大都会・名古屋を印象づけます。一方の太閤通口から西側エリアへと出ると、街の雰囲気は東側とは随分異なります。高層ビルはほとんどなく、量販店や昔ながらの商店、飲み屋やラーメン店が混在する雑多なムード。観光客がこの周辺エリアに目的地を求めることはあまり多くありません。 しかし、だからこそ面白いのがこの通称「駅西」エリアです。個性的なショップが点在し、名古屋ならではの歴史を感じられる散策ルートもあります。名古屋をよりディープに楽しめる要素に事欠かないのです。
秘境への入口となるミニシアター
「名駅(メイエキ=名古屋駅)のはずなのにアジアの雑踏街のような秘境っぽい雰囲気があるんです」というのはシネマスコーレの坪井篤史さん。太閤通口から徒歩1分の場所にあるミニシアターの支配人です。 「“変なところ”がこの辺りにとっては褒め言葉。最初は少しハードルが高いけどハマると何度でも来たくなる。ちょうどうちのシアターが境界線のようなものなので、ここに映画を見に来られれば、さらに奥にも足を伸ばして、いろいろ面白いところがあると気付いてもらえると思います」この言葉はシネマスコーレにもそのまま当てはまります。もともと映画監督の故・若松孝二氏が「若い映画製作者が作品を上映できる場を」との思いで開いた劇場だけあって、上映作品の大半はインディーズ映画。「ここで上映したい!」「上映記念イベントもやって盛り上げたい!」という監督や俳優も多く、上映、企画のラインアップは唯一無二。映画マニアからカルト的支持を得ていて、ここをきっかけに映画、さらには駅西エリアをより深く好きになる人も多いのです。
商店街のようなごちゃごちゃ感が面白い複合ビル
ディープな駅西の入口、シネマスコーレを越えて先へと進みます。この一帯は輸入食材店や立ち飲み店など新旧の小規模店舗が目立ちます。一方でリニア中央新幹線の開通に向けた再開発の対象エリアでもあり、所々に真新しいカフェチェーンやホテルが。開発の波が寄せて引いている様子を街の景色から感じ取ることができます。 その新旧が混在するまさしく街のはざまに、建物自体に古さと新しさが同居するホリエビルが現れます。1階は名古屋関連、名古屋にゆかりのある著者の本だけを専門に扱う書店「NAgoya BOOK CENTER」、その奥にはレトロなクリームソーダやホットケーキが人気の「喫茶River」。2階はフリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER NAGOYA」(当然、すべて無料!)などが入居する、ちょっと……いやかなり不思議な複合ビルです。 「祖父が建てた築50年以上のビルをリノベーションしました。この辺りは戦後の闇市から発展し、小さな長屋ビルが立ち並んでいました。近年はリニア開通に向けた再開発が進んでいますが、大手資本のチェーンばかりにならないよう、商店街がそのままビルになったような場所をつくりたかったんです」とオーナーの堀江浩彰さん。 ホリエビルから通りを1本隔てた場所には古い旅館を改装した名古屋土産専門店「オミャーゲ名古屋」があり、こちらも堀江さんが運営。いずれもここにしかない個性あふれるショップで、これだけで駅西エリアに足を運ぶ目的になりそうです。短歌の聖地で注目度急上昇の町中華
名古屋駅の太閤口から西へ延びるメインストリートの商店街が駅西銀座(名古屋駅西銀座通商店街)です。銀座という名称からして昭和の香りが漂い、レインボーカラーのゲートもどことなくレトロなデザイン。このゲート越しに名古屋駅の超高層ビル群を望む景観も、名古屋駅の西側と東側のコントラストを鮮明に映し出しています。 この駅西銀座の中で長く愛され続け、かつ近年注目度が高まっているのが1972(昭和47)年創業の中華料理店、「平和園」です。「最近、若いお客さんがとても増えています。町中華らしさが評価されているのか、10~20代の子が炒飯を食べて『懐かしい~』と言ってくれるんです(笑)」と2代目店長の小坂井大輔さん。
筆者も古くから足を運んでいる店ですが、安心、安定の正統派の味わい。その特別ではないところが、近年の町中華ブームに乗って、若い世代にもウケているのでしょう。 もう1つ、この店が注目を集めているのは“短歌の聖地”であること。 「7~8年前に店で歌人の集まりがあり、参加者の発案で短歌ノートを作りました。それから歌人たちが立ち寄ってくれることが増え、普段は短歌を詠んでいない人も、せっかくだからとノートに一首残していってくれるようになりました」
かくいう小坂井さんも歌人という顔も持ち、この春には2作目の歌集『KOZAKAIZM』を出版しました。アウトロー的視点が個性的だと評価され、そのバックボーンにはやはり駅西エリアならではの空気があるといいます。 「僕が子どものころは路上で裸で寝ている人とか客引きとかがたくさんいて、どこか憎めないそういう人たちに自分を重ねて短歌を詠んでいます。短歌の世界ではこのような環境で育った人はあまりいないので、面白いと思ってくれているんじゃないですかね」と小坂井さん。
超高層ビル群を背にしながら庶民的なムードが残る駅西。その空気を感じながら、初めてなのにどこか懐かしい町中華を味わうと、インスピレーションが湧いてきて思わぬ傑作を詠めるかもしれません。
1日中モーニングの喫茶や歴史散策コース
駅西銀座には、他にも古さと新しさが同居した人気スポットが。古民家を再生させて2019年にオープンしたのはその名も「喫茶モーニング」。名古屋の喫茶店の代名詞ともいうべきモーニングサービスを、8時~15時30分までの営業時間中を通して楽しめる“モーニングサービス専門店”です。コーヒー代だけでトースト、ゆで卵、サラダ、ヨーグルトが付いてきてすこぶるお得。さらに250円プラスすれば小倉トーストやカレーが付いたりと、追加料金で内容がグレードアップしていきます。旅行で名古屋を訪れる人の多くが体験してみたいという、お得な喫茶店のモーニング。朝の時間帯でなくても楽しめるのが名古屋ならではです。 また、歴史好きなら、名古屋市中村区出身の豊臣秀吉にちなんだ「太閤秀吉功路」を歩いてみるのもおすすめです。これは名古屋駅から中村公園までの約3キロメートルの歴史散策ルート。秀吉のエピソードを絵本風に表したモニュメントが歩道に沿って数々設置され、その出世ストーリーを追体験できるのです。 駅西エリアのさらにマニアックな楽しみ方は、リニアの工事現場チェック。名古屋駅へリニアが乗り入れるための工事が現在進められていて、それにともない駅の東西に緑地帯が整備されています。
駅西エリアでは、太閤通口を出てやや北西の一帯が対象。街の景観が刻一刻と変化し、現在見られる景色は今だけのもの。完成はまだ先ですが、過程の景色を見た記憶や記録は、リニアが開通したときにこそ貴重なものになるはずです。
名古屋めしストリートの地下街・エスカ
マニアックな街歩きを楽しめる駅西エリアですが、誰もが気軽に楽しめる名古屋めしストリートもあります。太閤通口直結の地下街「エスカ地下街」です。新幹線口直結の地下街、エスカ。2000年代以降、名古屋めしに特化したショップラインアップの充実を図り、大きく飛躍した。味噌カツ、味噌煮込みうどん、手羽先、ひつまぶし、きしめんなど主要な名古屋めしが一堂に会する
パスタ・デ・ココはカレーチェーンCoCo壱番屋が手掛けるあんかけスパゲティ専門店。名古屋駅エリア初出店でここだけの限定メニューも。写真は台湾肉みそスパ。そのほか、カレーパンのテイクアウトやモーニングセットもある
<もっと名古屋を知りたい>