夫婦関係

自然妊娠したら「無課金妊婦」と呼ばれる時代。妊娠・出産、不妊治療、セックスレスの現在地

先日、SNSでトレンド入りして話題になった「無課金妊婦」という言葉。背景にあるのは、厳しい不妊治療の現実でしょう。現在、国や自治体では少子化対策としてさまざまな取り組みが行われており、さらに、セックスレスもこの問題と切り離すことはできないと考えます。

三松 真由美

執筆者:三松 真由美

夫婦関係ガイド

子どもを産むことが当たり前ではない時代、今できることとは?

子どもを産むことが当たり前ではない時代、今できることとは?

2024年は、これまでで最も出生数が少ない年となりそうです。

厚生労働省が2025年1月24日に公表した人口動態統計の速報値によると、2024年1月から11月に生まれた外国人を含む赤ちゃんの数は、前年同期比5.1%減の66万1577人。このまま推移すれば、日本人の出生数が初めて70万人を割るのではないかと話題になっています。
<目次>

不妊治療へのサポート

子どもが減り続ける中で、何とか赤ちゃんを産んでもらおうと、国や自治体ではさまざまな取り組みが進んでいます。

既に2022年4月から、人工授精などの「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精などの「生殖補助医療」について、保険適用が始まっています。私の周りでも、不妊治療を行っているカップルがどんどん増えている実感があります。

厚生労働省の調査によれば、2021年には6万9797人が生殖補助医療により誕生しており、これは全出生児(81万1622人)の8.6%にあたり、約12人に1人の割合になるそうです。

また、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%で夫婦全体の約2.6組に1組の割合、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%で、夫婦全体の約4.4組に1組の割合になります。

「無課金妊婦」がSNSでトレンドワードに

先日、X(旧Twitter)で自然妊娠した女性を「無課金妊婦」と揶揄(やゆ)したポスト(ツイート)が話題になっていましたが、それだけ自然妊娠が「当たり前」ではなく「特別なこと」と捉えられるようになったのかもしれません。

Xで注目された理由の1つは、「お金をかけずに妊娠した女性」に対する、「ずるい」「妬ましい」などの攻撃的なニュアンスがそこに含まれていたからではないかと思います。また、「無課金妊婦」というワードがSNSでトレンド入りしたことにより、不妊治療に取り組む人々の心身や経済面でのつらい負担が顕在化したのだと感じます。

「課金」という言い方は茶化しているようで違和感がありますが、保険適用とはいえ、実現できるか分からないことにお金を支払う空しさ、負担感、不安感が、現代社会を象徴する「課金」という言葉と結びついたのかもしれません。

卵子凍結への助成も開始

実は、公的助成を受けられるのは不妊治療だけではありません。

東京都では、2023年9月より都内在住者の18歳から39歳までの女性に対する「卵子凍結に係る費用」及び「凍結卵子を使用した生殖補助医療」への助成も開始しています。

事前説明会への参加や未受精卵子の採卵又は凍結後(最大5年間)の調査への回答が義務付けられていますが、助成金受給のためのハードルは比較的低く、実際に助成金を受給した女性も増えてきています。私の身近でも、数名から話を聞いています。

以前は卵子凍結というと、抗がん剤や放射線を使った治療に伴って妊娠が困難になる方のために卵子を保存しておく「医学的卵子凍結」がメインでした。しかし、日本受精着床学会の卵子凍結に関するアンケート調査によると、近年は妊娠・出産の高年齢化に伴う不妊治療の増加とともに、将来に向けて若いうちに卵子を保存しておくという「社会的卵子凍結」が増加しています。特に東京都では「社会的卵子凍結」の方が実施割合が高い状況です。

「卵子凍結の実態を詳しく知りたい」という方は、東京都の作成した卵子凍結の手引き「みんなで一緒に知りたい卵子凍結のこと」をぜひご覧ください。

卵子凍結へ広がる理解・共感

これによると、2024年2月に都内在住の18歳以上に行った調査では、卵子凍結について「言葉も内容も知っていた」人は全体の76%。また、卵子凍結を実施・検討する人に対して「気持ちが理解できる」と回答した人は全体で94.7%で、男女にほとんど差がないのが特徴です。

年代別に見ると、「気持ちが理解できる」割合が最も高かったのは30代で97.1%。卵子凍結が身近なものではなかった70代以上でも88.5%と、かなりの理解・共感を得られていることが分かります。

これは筆者の想像ですが、70代以上の方の子どもがちょうど30代から40代に当たることを考えれば、子の卵子凍結により「孫の顔が見たい」という親としての希望が実現することもあり得ます。身近な家族の問題として、娘の卵子凍結に対して親世代は理解があるのかもしれません。

また、卵子凍結について「今の自分に直接関係ないが関心はある」と回答した人は全体の73%に上ります。これに「関心があり、実際に検討している」と「関心があり、これから検討したい」を加えると90%が「関心がある」ということになるのです。

「関心があり実際に検討している」層を年代別に見ると、割合が最も高いのは「30代女性」で、次いで「30代男性」「40代男性」「40代女性」となっており、男性も高い関心を寄せていることが分かります。

そして、実際に卵子凍結をした人のうち、未婚、有職者、30代がいずれも90%を占めています。また凍結した卵子の4年以内の利用を予定しているのは53%と約半数。残りは7年から10年以内が16%、未定も31%を占めています。

結婚前に、将来を見据えて先に卵子を「キープ」しておくという考え方は、今後さらに広まっていきそうです。

妊娠を巡るその他の旬なトピックスといえば、東京都の行っている「プレコンゼミ」があります。

性や妊娠に関する正しい知識を身に付ける「プレコンゼミ」

プレコンとは、プレ(pre, ~の前)+コンセプション(conception, 受精・懐妊)、つまり「妊娠前」を意味する言葉。「プレコンゼミ」とは性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うことを促すセミナーで、都内在住の18~39歳ならカップルでもシングルでも参加できます。

受講後、希望者は都が指定する検査のうち、医師と相談の上で実施した分の費用の一部(女性が上限3万円、男性が上限2万円)の助成が受けられます。

対象となる検査は、性感染症の検査の他、男性は精液量、総精子数などがわかる「精液一般検査」、女性は卵巣予備能(卵巣内に残っている卵子の数)を知るのに役立つ「AMH検査」、経膣超音波検査などがあります。

今までは不妊治療の一環として受けることが多かったこれらの検査を早くから受けて、自分やパートナーの「妊娠しやすさ」を知ることは、「卵子凍結」と同様に、妊娠に向けた「先手必勝策」といえる取り組みです。

プレコンゼミのように、男女ともに結婚前から自分の体や妊娠について学ぶ機会があることはとてもいいことです。欲を言えばもっと早く、学校教育の一環として実施してもいいような内容です。

性やセックスへの知識不足の問題

さらにセックスレスの専門家として申し上げるなら、妊娠に至るためのセックスに関しても、きちんと学べる機会が必要です。男女の生殖器の構造や機能、勃起や射精、排卵や月経の仕組みなど、自身についてだけでなく異性の身体と性の情報について、まだまだ知識が足りていません。

「不妊治療を始めた妻との営みが、切羽詰まっててしんどい」という夫側の秘密の声もちらほらあります。不妊治療に取り組んでいる女性の方々に講演をしたとき「楽しい営みではなくて義務になっている」という意見も複数ありました。

そしてセックスレスに……

義務の営み、期日限定の営みは、まさにセックスレス要因のひとつです。

男女の営みに対する向き合い方や性欲の違い、日本にセックスレスが多いという現実、そしてその原因・対策も若いうちから知っておいてほしいところ。相手を思いやる営みについて知ることも、大事な少子化対策だと思いませんか。

少子化対策として注目を集める「妊娠」を巡るさまざまな公的支援と同時に、夜の営みに関する意識改革にもぜひ目を向けてください。

<参考>
・「人口動態統計速報」(厚生労働省)
・「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」(厚生労働省)
・「「卵子凍結に係る費用への助成」・「凍結卵子を使用した生殖補助医療への助成」を開始」(東京都)
・「卵子凍結に関するアンケート調査」(日本受精着床学会)
・「みんなで一緒に知りたい卵子凍結のこと(卵子凍結の手引)」(東京都)
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