夫の実家に3日間滞在することに
「うちは私の実家近くに住んでいるので、このお正月は思い切って5歳と1歳半の子を連れて夫の実家に2泊したんです。コロナ禍で、子連れで行ったのは初めてでしたが、長い3日間でした。義父母は子どもたちを迎えて喜んではくれたけど、なにもかもが私には驚くことばかりで……」苦笑しながらそう言うのは、アサコさん(39歳)だ。上の子はともかく、下の子にもチョコレートやキャラメルなどを平気で与える。「子どもは甘いものが好きだからね」とニコニコしていたが、アサコさんは下の子にはまだ早い、キャラメルなど喉につかえる可能性もあるし、まだアレルギーがあるかどうかも分からないから勝手に与えないでくださいと必死で訴えた。
すると義父が、「親がそうやって甘やかすからアレルギーなんかになるんだ。子どもの好きなものを食べさせろ」とわけの分からないことを言う。
「とにかく次からは食べさせていいか私たちに聞いてくださいと言って、夫のほうを見たら、さりげなく視線を外す。コイツ、と半分キレかけたんですが、そこは我慢。そのあと2人きりになったとき夫に話したんです。今どきはなにがアレルゲンになるか分からないから、もう少し様子を見ないと。分かってるでしょって」
夫は「分かった」とは言ったものの、親戚が集まってくると昼間から酒を飲み始めた。これでは下の子を見守ることさえできない。そのうえ、アサコさんは台所を手伝わされたので、下の子をおんぶしていた。
尊大な義父の態度にキレた私
「すると義父が、あの嫁はオレたちに孫を抱かせてもくれないって言いだして。少し酔っているからだんだん声も大きくなる。見てるから連れておいでよと夫が言うので、とりあえず夫に託したんです。そのあと手伝いの合間にふと見たら、義父がぐちゃぐちゃに噛(か)んだスルメを下の子の口に入れる寸前。私、思わず走って行って、『なにやってんのよ、ふざけないでよ』と叫んでしまいました」昨日も言ったでしょ、勝手に食べ物をやらないで。しかも大人の唾液がどのくらい雑菌まみれか、そんなことも知らないの? 冗談じゃない、うちの子を殺す気ですか、とアサコさんはまくしたてた。
「必死だったんですよ。子どもを守るために。そうしたら10人くらいいた親戚がシーンとしちゃって。あ、仮にも義父だったと気づいたけど、立場なんてかまってられなかった」
周りがシーンとしたのは、義父に逆らう人がいなかったからだ。義父はもともと尊大なタイプで、「オレがこの一族の法律だ」と言ったことがあると夫から聞いていた。自分の言うことをきかない人間にはとことん嫌味を言うらしい。
言い争いがヒートアップして
「嫁のくせにオレに逆らうのかと言われたので、私はあなたの孫の母親ですよ、少しは敬意を払ったらどうですか。昨日から子どもが食べられるかどうか分からないものばかり与えて。どうして私に聞かないんですか、と少し冷静に言いました」夫は、「ま、いいじゃないか」と義父をかばうような言葉を発した。いいの? あなたは子どもがアナフィラキシーショックになってもいいの? 命を落としてもいいの? と詰め寄ると、夫は黙り込んだ。
「お義父さんは、今どきの子育て事情なんて知らないでしょうし、知るつもりもないんでしょうから、せめて母親である私に聞いてくださいって言ってるんですよ。私、間違ってますかとさらに冷静に言いました」
すると義父は、息子である夫に向かって「こういう嫁を一生の不作というんだ」と吐き捨てるように言ったという。
「いや、でもアサコの言うことは確かにと言いかけた夫に、『おまえは父親に逆らうのか』って。こんな父親、いまだにいるんですね、理不尽も甚だしい。昭和の嫌われ男ですねと言ってやりました」
義母、義姉にまで頼み込まれて……
夫を促して帰るつもりだったが、そこで泣きついてきたのが義母だった。アサコさんを他の部屋に引っ張っていき「ごめんなさい、ここで帰られるとあとで私が怒られるの。だからなんとか予定通りにしてくれない?」と。「おかしいですよ、この家は。どうしてあんな男をのさばらせているんですかって、本気でキレました。義父は義父で『クソ嫁が!』と叫んでいる。『クソ舅が!』と言おうとしたけど、いや、同じ土俵に上がってはいけないと自制しました」
義母だけでなく義姉にも頼み込まれて、アサコさんはしかたなく下の子から目を離さず、とりあえず居つづけた。だが翌朝早く、我慢ができなくなって朝食前に車に乗り込んだ。夫が一緒に乗らなければ離婚さえ辞さないつもりだった。
「そうしたら夫も乗ってきました。『考えたけど、アサコが正しいよ』とポツリと言った。オレ、ヘンな家で育っちゃったんだなあって。ちょっとかわいそうになったけど、『もういいよ、親のことは。私たちが親として子どもに何をしてあげられるかだけを考えよう』と言ったら夫も頷いていましたね」
結局、夫の実家からは連絡が来ず、夫もしていないようだ。思わぬところで実家と縁が切れかけている夫には少し申し訳ない気もするが、自分たちが親として自立していくしかないのだとアサコさんは腹を決めた。