カラーコーディネート

【大河ドラマ べらぼう】喜多川歌麿・東洲斎写楽の作品から見る「名作のイメージカラー」

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、江戸のメディア王・蔦屋重三郎の生涯を描いた作品。蔦重は、喜多川歌麿の美人画や東洲斎写楽の役者絵を世に送り出したことで知られます。今回は、2人の作品のイメージカラーについて見ていきましょう。

松本 英恵

執筆者:松本 英恵

カラーコーディネートガイド

2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、江戸時代中期に活躍したメディア王・蔦屋重三郎(1750~1797年)の生涯を描いた作品。蔦重こと蔦屋重三郎(演:横浜流星)は、美人画で知られる喜多川歌麿(演:染谷将太)、役者絵で知られる東洲斎写楽を世に送り出した人物です。

町人文化の全盛期にあたる化政文化(1804~1830年)は、第11代将軍・徳川家斉の時代に最盛期を迎えます。老中・田沼意次(演:渡辺謙)を中心に商業重視の政策を推し進めたことから、商人を中心に江戸は好景気に沸きました。第5代将軍・徳川綱吉の治世下に京都・大阪の豪商を中心として発展した元禄文化(1688~1707年)とは異なり、化政文化は江戸の町人たちの間で広まったのです。

化政文化を象徴する美人画や役者絵は、ブロマイド(スターの肖像写真)のようなもの。ファンがコレクションしたり、飾ったりして楽しんだのではないでしょうか。これらの作品にはそれぞれ特徴的なイメージカラーがあり、世界中の人々を魅了する力があります。今回は、歌麿や写楽の代表的な作品のイメージカラーを見ていきましょう。

喜多川歌麿の美人画

喜多川歌麿(1753?~1806年)は、美人画で江戸に旋風を巻き起こした天才絵師。幼い頃に絵師である鳥山石燕(演:片岡鶴太郎)のもとで絵を学び、その後蔦重と出会います。従来の美人画は全身を描きましたが、歌麿は顔を中心とする構図を考案し、表情や内面の艶をも表現しました。
喜多川歌麿の美人画のイメージカラー

喜多川歌麿の美人画のイメージカラー

●婦女人相十品・ポッピンを吹く娘(イメージカラー:紅桜)
「婦女人相十品・ポッピンを吹く娘」のイメージ

「婦女人相十品・ポッピンを吹く娘」のイメージ(出典:PIXTA)

当時流行した市松模様の振袖を身にまとった娘が、頬をふくらませてポッピンを吹く姿が描かれています。ポッピンとは江戸時代に流行した舶来品のガラス玩具のこと。背景に雲母摺(きらずり)という技法を施し、ほのかな光沢が女性の美しさを引き立てています。

市松模様には「紅桜」の色が使われており、結婚前の瑞々しい女性像を際立たせています。(発表時期:1790~91年頃)

●北国五色墨・芸妓(イメージカラー:青紫)
新吉原で働く女性たちをテーマに描かれた本図は、やや前屈みに伸びた首、動きのある指先の構図が印象的。上に着ている羽織をよく見ると、下に着た着物の模様が透けているため夏の装いだと分かります。黄色みがかった背景も本図の特徴です。

着物と羽織が重なった部分がイメージカラーの「青紫」。涼やかな夏の風情を描き出しています。(発表時期:1794~95年頃)

●寛政三美人(イメージカラー:薄墨)
「寛政三美人」のイメージ

「寛政三美人」のイメージ(出典:PIXTA)

寛政三美人とは、寛政時代に実在した富本豊雛(とよひな)、難波屋おきた、高島屋おひさの3人の女性のこと。桜草紋、桐紋、柏紋で区別されています。三角形の構図となっており、繊細かつ優麗な描線で女性の美しさを表現しています。

イメージカラーの「薄墨」は、日本髪の美しさを表現した色です。(発表時期:1793年頃)

●高名美人六家撰・難波屋おきた(イメージカラー:梅紫)
「高名美人六家撰・難波屋おきた」のイメージ

「高名美人六家撰・難波屋おきた」のイメージ(出典:PIXTA)

当時江戸で名高かった6人の美女を描いたシリーズ。難波屋おきたは茶屋で働く若い女性従業員で、店は浅草寺周辺にあったとされます。美人で愛嬌(あいきょう)があり客扱いも親切だったため、多くの客が集まりました。

当時も半衿は白が多いのですが、おきたの半衿は「梅紫」。茶屋の看板娘らしいしゃれっ気のある装いを象徴する色です。(発表時期:1793年頃)

東洲斎写楽の役者絵

東洲斎写楽(生没年不詳)は、1794年5月から1795年1月の約10カ月(※1)の期間内に140数点の作品を版行した後、忽然と姿を消した謎の絵師。発表時期は4期に分けられており、すべて蔦屋重三郎の店から出版されました。写楽の代表作は第1期の大首絵の作品。背景には雲母摺を施し、顔の特徴を誇張することでその役者の個性を大胆かつ巧みに描きました。

※1:江戸時代は太陰暦を使っていた関係で、日数調整のために1794年には11月が2回(11月と閏11月)がある
東洲斎写楽の役者絵のイメージカラー

東洲斎写楽の役者絵のイメージカラー

●三代目大谷鬼次の江戸兵衛(イメージカラー:黒茶)
「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」のイメージ

「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」のイメージ(出典:PIXTA)

由留木家のお家騒動を背景に、伊達の与作と重の井の恋、それにまつわる悲劇を描いた作品『恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)』。写楽は、同作の登場人物の表情やポーズをダイナミックに描いています。

本図では市川男女蔵(いちかわおめぞう)が演じる奴一平(やっこいっぺい)の用金(ようきん)を奪おうと襲いかかる江戸兵衛が描かれており、あごを突き出して下からにらみあげるようなまなざしは、写楽ならではの独創的な表現です。

イメージカラーの「黒茶」は着物の縞模様の色。羽織を着用しないラフな着流し姿は、悪役ならではの魅力を引き立てています。(発表時期:1794年)

●市川男女蔵の奴一平(イメージカラー:赤桜)
「市川男女蔵の奴一平」のイメージ

「市川男女蔵の奴一平」のイメージ(出典:PIXTA)

『恋女房染分手綱』で、伊達与作の家来・一平が江戸兵衛に襲われる場面を描いた作品です。刀に手をかけ、悪党と立ち向かう一平の表情には緊迫感が漂います。本図は襦袢の色にちなみ、通称「赤襦袢」と呼ばれています。

イメージカラーの「赤桜」は襦袢の色。緊迫感あふれる本図を象徴する色です。(発表時期:1794年)

●市川鰕蔵の竹村定之進(イメージカラー:濃飴)
「市川鰕蔵の竹村定之進」のイメージ

「市川鰕蔵の竹村定之進」のイメージ(出典:PIXTA)

『恋女房染分手綱』で不義の娘の身代わりとなって切腹する、能師役の竹村定之進を描いた作品。演じる市川蝦蔵(五代目団十郎の改名)は、劇界随一の名優と呼ばれた逸材です。

イメージカラーの「濃飴」は着物の色。愛情深い役柄を象徴する色であり、市川蝦蔵の魅力を物語る色でもあります。(発表時期:1794年)

●三代目瀬川菊之丞の田辺文蔵の妻おしづ(イメージカラー:菜種)
1701年に起きた「亀山の仇討ち」をもとに脚色された『花菖蒲文禄曾我(はなあやめぶんろくそが)』。本図は、同作で三世瀬川菊之丞が演じた「田辺文蔵妻おしづ」をリアルに表現しています。男性が女性を演じる女形の着物は華やか。重ね襟の紅と草が着物の色と美しいコントラストを描いています。

イメージカラーの「菜種」は着物の色。女形を象徴する色と言えるでしょう。(発表時期:1794年)


浮世絵はおおむね200枚を1つの単位として摺り、最初に摺り上がった200枚は「初摺(しょずり)」と呼ばれます。初摺は丁寧に作られますが、あとから増刷される「後摺(あとずり)」は版木が摩耗して線がつぶれていたり、絵具が足りなくなって絵師が指定した色とは違う色で摺られたりすることもありました。美術館に展示される浮世絵は状態がいいものが多いとはいえ退色しているため、研究者の間では初摺の色を再現する試みもあります。

今回は、喜多川歌麿と東洲斎写楽の名作の概要とイメージカラーをあわせてご紹介しました。

参考:
ナカバヤシ浮世絵インク
歌川広重、喜多川歌麿の作品をテーマにした「浮世絵インク」
葛飾北斎、東洲斎写楽の作品をテーマにした「浮世絵インク」


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