「再配達」もそうした課題の一つであり、その解決策が非対面で指定された場所へ届ける「置き配」というサービスです。置き配を促進するための取り組みとして2024年10月から政府主導の「置き配ポイント」事業も始まった中、再配達と置き配を巡る状況についてお伝えします。
宅配荷物の増加と深刻な労働力不足が背景に
まず、置き配が生まれた背景について解説しましょう。コロナ禍を経てEC市場が拡大し、宅配荷物の取扱個数が増加しました。国土交通省は令和5年(2023年)度の宅配便取扱個数は、前年の令和4年(2022年)度より145万個増の50億733万個と発表しています(※1)。さらに宅配便の小口化や配送頻度が増えたことで、再配達やトラックの積載率の低下など非効率な状況が起こっています。少子高齢化や人口減によるトラックドライバー不足など、労働力の不足も深刻化しています。
増加する荷物を減少する労働力で賄うためにはムダを減らし、物流を“効率化”することが不可欠です。非効率な再配達を削減することは、今後の物流を維持するためにも大切だといえるでしょう。
そもそも置き配とは
こうして、再配達の削減を目的として生まれたのが「置き配」です。これまで宅配の荷物は対面で届けることが一般的でした。しかし、共働き家庭や単身者が増え、昼間に在宅している世帯は少なくなりました。不在が多くなり再配達が見過ごせない状況となっているのです。そのような中、置き配なら届け先が不在でも、対面せずに玄関前や宅配ボックスなどの指定場所に届けることができます。配送する側は再配達の手間が省けますし、利用者も自分の好きなタイミングで荷物を受け取ることができるなど、双方にとってメリットのあるサービスといえるでしょう。
置き配を促進する「置き配ポイント」
こうした状況下で、置き配を促進するための取り組みが、政府が主導する「置き配ポイント」です。宅配便の利用者にポイントを還元し、置き配の利用促進と物流事業者の負荷を減らすことを目的とした施策です。「置き配ポイント」では、宅配便の利用者が置き配やコンビニ受け取りなどを選択した場合、1配送当たり最大5円のポイントが還元されます。「置き配ポイント」は2024年10月から開始され、アマゾンジャパン、楽天グループ、LINEヤフーのネット通販大手、宅配便のヤマト運輸、佐川急便、日本郵便が参加しています。
政府はこの取り組みによって、現時点で12%ほどの再配達率を半減させる考えです。さらに「送料無料」の表示についても見直し、消費者の意識改革や行動変容を促すことも目指しています。
終わらない分は残業で……
置き配が広がる中、再配達は配送ドライバーにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。東京都内の大手物流会社に勤める配送ドライバーの一人は、「再配達1件に最低でも20分は必要」と話します。もしも届け先が不在の場合、他の荷物を配送してから再び同じ場所に戻らなくてはなりません。本来の配送ルートを組み直し、近辺を一周して戻るとトラックの走行距離や燃料の消費も増えます。
配送先が固まっている都内であれば、再配達にかかる時間や移動距離は短くなりますが、都心から離れた配送エリアほど、配送先の間が離れているため、移動距離や移動時間が長くなるそうです。その分、再配達1件当たりに時間がかかり、終わらない場合は残業としてドライバーの負担が増加します。
また、夜間の時間指定で届けられずに発生した再配達分は、土曜日午前中の時間指定に集中し、荷物の量を倍増させるそう。平日の夜は、利用者が残業などで配送時間帯までに帰宅できなかったり、在宅でも入浴中でインターホンの音に気付かなかったりすることもあります。
こうして配送ができなかった荷物は、再びトラックに積み込まれ、週末の町を走ることになるのです。
私たち消費者に与える影響
では、置き配のメリットとは何でしょうか。一番の利点は受取時に在宅していなくてもよいことでしょう。忙しい日常生活では、荷物の受け取りのために時間を拘束されたくないと思う人も少なくないはず。また、再配達時の面倒な手続きが要らない点もメリットです。置き配であれば、再配達を依頼するために何桁もの問い合わせ番号を入力する必要はありません。置き配のメリットは“時間に縛られないこと”といえます。
非対面なので、受け取るためにわざわざ身支度をしたり、ドライバーに気を使ったりすることも不要です。食事の用意や子どもの相手などでどうしても手が離せないときでも重宝するでしょう。
3つの視点から見る置き配の課題
配送の担い手の負担を削減する置き配ですが、メリットばかりとはいえそうにありません。置き配に想定される課題を3つの視点から考えてみます。
1:防犯上の課題
玄関前や軒下に置かれた荷物は、悪意のある第三者から盗難されるリスクがあります。また、置き配の荷物があることで、不在が分かり窃盗に入られる心配も。
2:プライバシー上の課題
置き配されている荷物の宛名から名前や住所、性別などの個人情報が漏えいし、悪用されるケースです。個人が特定されるだけではなく、発送元や外装から荷物の内容が推測されてしまい、プライバシーが侵されてしまうケースも考えられます。
3:納品に関わる課題
置き配で戸外に置かれた荷物は雨ざらしなどによって汚損したり、炎天下で品質が劣化したりする荷物もあるでしょう。
また、置き配を指定したにもかかわらず、隣家に誤配されたり、指定場所以外に置き配されたりするなどの実態もあります。住所表示上、同じ住所に、複数の住宅が並んでいたり、表札がないため届け先を特定できないケースも。
宅配ボックスが満杯で入れられなかったり、大きな荷物が入らなかったりすることも頻繁に発生するそうです。オートロックのマンションでは、不在時はそもそもエントランスが開かないため、届け先の玄関前まで行くことすらできません。
置き配は、配送のラストマイルにおいてドライバー不足に対応する解決策の一つです。また置き配ポイントは利用者のインセンティブになる取り組みです。一方、置き配にはまだまだ課題があるのも事実。これからも安全に、確実に荷物が届く環境整備が不可欠ではないでしょうか。
<参考>
※1:国土交通省「令和5年度 宅配便・メール便取扱実績について」
※2:Hint-Pot「『不在時に置き配利用したい?』2000人に調査 3人に1人が否定派、防犯上の懸念も」(2023年11月19日公開)
【この記事の筆者:蜂巣 稔】
物流ライター。外資系コンピューター会社で金融機関・シンクタンク向けの営業、輸出入、国内物流を担当。その後2002年から日本コカ・コーラにて供給計画、在庫適正化、物流オペレーションの最適化などSCM業務に18年以上従事。2021年に独立。実務経験を生かしライターとしてさまざまなメディアで活躍中。物流、ビジネス全般、DXやAIなどテクノロジー領域が中心。通関士試験合格、グリーンロジスティクス管理士。