妻に突然、先立たれた43歳男性の葛藤
学生時代からの付き合いで気心が知れた妻を、結婚7年で失ったケンジさん(43歳)。妻は誰よりも彼を理解してくれていたという。「20歳から付き合って、大学内でもいつも一緒にいました。彼女といると自分がとても前向きになれる。彼女も同じように思っていてくれて、二人でそれぞれ自分の夢に向かっていこう、そして人生をともに歩もうと決めていました」
卒業後、それぞれの道を歩き始めたが、関係は問題なく続いていた。二人とも他の異性に気持ちが移ることはなかったという。
「他の女性に誘われてデートしたことはあるんです。でも妻といる時ほど楽しくなかった。妻も他の男性と食事くらいはしたことがあったけど、あなた以外は考えられないと言ってくれた」
30歳になる前にはと言われ、彼女の29歳の誕生日に結婚した。その時すでに妻は身ごもっていた。結婚して半年ほどで娘が産まれた。
「妻は1年ほど育休をとって仕事に復帰しました。僕もなるべく早く帰って家事や育児をしました。とはいえ、手伝う程度でしかなかったかもしれないけど。ただ、夜はなるべく妻を寝かせるように気を遣った。二人で小さな命を育てていこうと頑張りました」
妻が突然、倒れて……
夫婦とも実家が地方だったため頼れる親戚もなかったが、同僚や先輩たちが気を配ってくれたと、彼は当時を思い出したのかしみじみと語った。「それなのに結婚7年、娘が小学校に入学してすぐ、妻が突然、倒れたんです。出勤途中の駅のホームで。くも膜下出血でした。数日後、意識が戻らないまま旅立ちました。僕も娘も何がなんだかわからなかった。本人が一番悔しかったんじゃないでしょうか」
妻を失ってから、ケンジさんは何のために生きているのかわからなくなった。もちろん娘のために家事や調理はこなしたが、深夜になるとため息をつき、酒をあおって眠る日々だった。
「1年くらいたったころでしょうか、娘が『お父さん、参観日に来てくれる?』と涙目で言うんです。そういえば学校行事にはほとんど参加していなかった。仕事と家事で必死だったし、それ以上に自分だけの悲しみに浸って、娘のことを考えてやれなかった」
ようやく目が覚めた彼は、娘を抱きしめて二人で泣き、そのあと二人で笑った。ケンジさんはそうやって少しずつ立ち直っていった。
>娘の気持ちを考えると難しい