ダイエット成功の万能感
「私も実はダイエットで体を壊したことがあります」ユキさん(43歳)は苦笑しながらそう言った。それは3年前のこと、やはり夫の一言がグサッときたからだった。
「久々にいいムードになって、夫に抱き寄せられたとき、『すげえ肉だな』と夫がお腹をつまんだんですよ。これがかなりグサッときまして。その場は拒否しました。夫は『冗談だよ』と言ったけど、妙な緊張感が流れた瞬間でした。そのとき決意したんですよ、ダイエットして夫を見返してやろうと。悔しかったんです」
不用意な夫の一言で、ユキさんの心に火がついてしまった。摂取カロリーが消費カロリーを下回れば太らないはずと思い、彼女は食事を極端に減らした。栄養ドリンクなどに頼り、食べるのはほんの少しの野菜と魚、鶏肉だけだった。炭水化物は一切摂らない。めったにしなかった運動も激しく行った。
「3週間で8キロくらい痩せました。お腹の肉はつまめなくなっていたので、夫に自慢したんです。夫は目を丸くして『悪かったよ。肉がつまめても問題ないよ。それよりむしろそんな短期間で痩せたのが怖い』って。なんだよと思いましたが、せっかくダイエットしたんだし、これからも続けていこうと思っていたんです」
ところがその2週間後、彼女は極度の貧血で倒れてしまった。あげく搬送された病院で「栄養不良」と診断される。
「入院することになり、病院の天井を見ながら、私、何をやってるんだろうと思いました。まだ小学生の息子と娘に心配をかけてまで、意地になってダイエットしたのはなぜなのか、自分でもわからなかった。ただ、やればできる、私を舐めるなと夫に思わせたかったのかもしれない……」
痩せたらもっと、すてきな女性に
ダイエットの甘い誘惑、というものがあるのかもしれない。痩せれば人生が変わるのではないか、痩せたらもっとすてきな女性になれるのではないか……。若くないからこそ、そう思いこんでしまうのは誰もが理解できるだろうが、実際に短期間で痩せるのは健康上、よろしくない。「その後も、ちょっと摂食障害になりかけた時期がありました。食べるのが悪みたいに思えて。でも夫が心から謝ってくれたこと、子どもたちが『太っていても痩せていても関係ない。ママはママ』と言ってくれたことで、今は普通に食べられるようになっています。そういえば高校生のころも一時期、食べないダイエットをやって心身ともに不調になったことがあるんですよね。それを思い出して、今後は気をつけようと思っています」
ダイエットで心身をすり減らしたら意味がない。「若いときと違って、見え方より健康であるかどうかが重要だと、やっと思えるようになりました」。
ユキさんはツヤのある肌を輝かせながらそう言った。