セフレというわけではない
「ただ、彼とセックスするときはゆっくり時間をとりたいと思うんです。慌ててするのは嫌。だから食事とか映画とかはなしにして、週末の1日は朝からラブホにこもって、夕方解散して買い物して帰るのが理想的なんですけどね……」彼になんとなくほのめかしてみたら、「オレはセフレなのか」といじけてしまったそうだ。だが、どうしても観たいわけでもない映画に時間をとられ、どうしても食べたいわけでもないレストランに行くのは時間もお金も無駄だとチカさんは言う。非常に現実的で、ロマンティシズムのかけらもないのが、「それが私なんですよ。彼はわかってくれないの」とチカさんはむしろうれしそうに言った。
「結婚するのか同居するのか、今のところは決めてないけど、互いにパートナーだと思っているんですよ。だからずっと一緒にいなくてもいい、映画なんてそれぞれに観て感想を言い合うだけでいいじゃないですか。私は彼のことが嫌なのではなく、デートに自分の時間をとられたくないだけ。
恋愛とデートすることは別
特に子どもがほしいわけでもないから、焦って結婚する必要もないし、とにかく今は自由に思い切り仕事がしたい。でも彼とのセックスと、そのあとのおしゃべりも大事。だから週1くらいでホテルで会うのが一番いいような気がするんだけど、彼は自分が大事にされていないと思うみたいですね」かつて、男たちがそんなセリフを言っていたような気がする。彼女に求めるものがセックスだけというわけじゃないが、せっかくの休日をデートだけに使いたくない、と。今は昔よりはるかに世知辛い世の中。スキルアップを常に心がけないと、社内でも置いていかれてしまいがちだとチカさんは言う。彼女の「無駄のない時間の使い方」は、そういう社会を反映しているのかもしれない。
「オレといるときくらいのんびりしてよと彼は言うけど、なかなかそうもいかない。せわしなく生きることが当たり前になっているんでしょうね。それは自分でも分かっているんです。ただ、今しかできないことってあるでしょう。それを精いっぱいやりたいだけなんです」
ラブホだけのデート、彼が納得してくれる日は来るのだろうか。それならいっそ結婚してしまおうというかもしれない。
「結婚は……今しかできないことじゃないと思うんですよね。そもそもしなくていいものかもしれないし」
チカさんはそう言って、困惑したように笑った。