リアルな給与事情
一方、こうした仕事に対する給与面についてはどうなのでしょうか。単刀直入に山本さんにお聞きしました。「月の手取りは約30万円です。年収は額面では440万円ほどですが、控除後の年収は310万円くらい。ボーナスは約15万円。前職の営業職では歩合給だったので収入が不安定でした。今ではそうした心配はありませんが、住宅ローンの返済を抱えつつ、子どもを大学まで進学させるのは、コンビニ配送の収入では正直とても厳しいですね。
夫婦で働いていても、本当にカツカツな状況です。うちはなんとか大学に行かせていますが、結構周りは厳しいんじゃないでしょうか。私がいる会社は副業NGなので、収入を増やすことにも限界があるんです。労働量と収入は見合っていないと思いますね」
深夜まで長時間拘束されながら、私たちの生活を支えてくれる配送ドライバーの給与事情は極めて厳しい状況でした。個人の収入の課題もさることながら、業界には労働量と人材不足の相関もありました。山本さんは次のように話してくれました。
「コンビニ配送の仕事はたくさんあるのですが、なにしろ人が集まりません。慢性的に“ドライバー不足”で、新たな採用もますます厳しくなっています。その中でも、人が集まる仕事と、人が足りない仕事に偏りが生じているのです。同じ時給であれば、負担の少ない仕事が選ばれがち。
例えば、同じコンビニの配送でも、カゴ車を使って積み降ろしする方が、私のようなバラ積みよりも負担が少ないです。そのため、カゴ車の配送にドライバーが流れてしまう。カゴ車を使えば、女性のドライバーでも体力的に対応でき、1件当たりの積み降ろしも30分程度と、短時間で完了します。
一方、バラ積みは人手による積み降ろしによって拘束時間も長くなり、ドライバーの負担が大きい。なので、たとえ配送件数が多くても、負担が少ないカゴ車を使うような仕事が選ばれます。“コンビニ配送に限って”ですが、ドライバーの選択基準が、負担が少ない仕事にシフトしているのを感じます。収入が低い課題はありつつも、人材確保の面では労働量の問題が大きいと思います」
少子高齢化と人口減少によって、ドライバーの高齢化が進んでいます。さらに若年層の成り手も減少し、担い手不足が深刻になる中、物流の現場では労働量の軽減を求めるリアルがありました。
自分が選んだ仕事に対する矜持
山本さんはどのような気持ちを持って今の仕事と向き合っているのでしょうか。「今の仕事を選択したのは自分です。なので、お客さまには満足してもらえるように頑張っていきたいと思っています。配送先のコンビニの店長さんやアルバイトの人に名前を覚えてもらえるとうれしいですね。名前を覚えてもらえるのは信頼の証しではないでしょうか。
たまたま別のドライバーの代打で配送したときに配送先のコンビニの店長から言われてうれしかったことがあるんです。『昨晩、納品してくれたのは山本さんだよね。いつも、分かりやすく納品してくれるから……。並べ方で分かるよ』と。お客さまに感謝してもらえると自分に自信が持てるんですよ。
あと、“あいさつ”が大事ですね。時には返事がないアルバイトの人もいるけれど、相手はどうあれ、自分から続けています。あいさつから信頼関係を積み上げていくと、仕事をしやすい環境ができていくと実感しています。
確かに、給与面や働く環境面では厳しいところもありますが、それに腐らず、小さな信頼を積み上げていくようにしていますね。信頼関係ができると、お互いさまの気持ちが生まれて、クレームも少なくなるんですよ」
いつでも必要なものを購入できるコンビニ。その存在が当たり前となり、私たちの生活にはなくてはならないものとなりました。一方で、人が寝静まった夜中も配送を続けるドライバーは、厳しい環境ながらも人知れず矜持を持ってハンドルを握っていました。
【この記事の筆者:蜂巣 稔】
物流ライター。外資系コンピューター会社で金融機関・シンクタンク向けの営業、輸出入、国内物流を担当。その後2002年から日本コカ・コーラにて供給計画、在庫適正化、物流オペレーションの最適化などSCM業務に18年以上従事。2021年に独立。実務経験を生かしライターとしてさまざまなメディアで活躍中。物流、ビジネス全般、DXやAIなどテクノロジー領域が中心。通関士試験合格、グリーンロジスティクス管理士。