酷暑が続く日本では、体温を上回るほどの気温が続いていて、もはや熱帯ともいえる日本の夏。信号待ちのわずかな時間ですら、電柱の影に駆け込みたくなるほど、その暑さは尋常ではありません。
そんな中、時間指定で家の前まで荷物を届けてくれる人たちがいます。玉のような汗を額に浮かべ、荷物をしっかり届けてくれる物流のプロたち。台車を押しながら街を行く「宅配便ドライバー」の姿を見ながら、ふと浮かんだ言葉が「物流業界のアスリート」でした。
「宅配ドライバーの人たちは、一体1日にどれだけの距離を歩き、走っているのだろうか?」、そんな興味を覚え、実際にお話を伺ってみました。物流の担い手不足が懸念されるなか、私たちの便利な生活を支えてくれている人たちの姿に迫ります。
サラリーマンから宅配ドライバーに転身し26年
お話を聞いたのは大手宅配便の会社に務めるドライバーAさん(仮名)です。会社名とお名前を出さないことを前提にインタビューすることができました。Aさんは50代半ばとはいえ、細身の体は引き締まり、日焼けした二の腕には力こぶが盛り上がっています。「28歳のときにサラリーマンを辞めて、今の会社に転職しました。宅配ドライバーになって26年です。いっときは資金を貯めて一旗揚げることも考えましたが、そうこうしているうちに50代半ばになってしまいました」
現在、日本のトラック輸送の担い手は高齢化が進んでいます。トラックドライバーの45.2%が40歳~54歳であり、29歳までの若年層は10.1%となっています(※)。
また、なり手も減少中。EC市場が拡大し荷物の量が増加する中、物流の担い手の不足によってこれまでと同じサービスの維持が困難になる“物流クライシス”が叫ばれています。トラックドライバーの残業時間が年間960時間に制限されることによって起こる物流の2024年問題は、私たちの生活にも影響を及ぼす課題です。
まずはAさんに宅配ドライバーのキャリアについてお聞きしました。
「都心部の支店で、法人向けの配送や集荷からスタートしました。東京都中央区日本橋や人形町が担当エリアでした。アパレル関係の会社が多かったので、原反(げんたん:加工前のロール上の布地)などを運んでいましたね。その後、湾岸エリアの支店で企業やタワマンの配送を担当しました。現在は新宿区の一部が担当です」
ひとくちに宅配便といっても、担当エリアによって配送先や集荷先の状況はさまざまです。企業が集積する地域、タワマンが林立するエリア、住宅街などによって配送のコツも異なります。
細心の注意を払ってトラックを運転
続いてAさんの日常の業務についてお聞きしました。「支店には午前7時45分~8時の間に出勤します。その後、メールや連絡事項の確認、荷物の積み込みなどをしてから出発。運転するトラックは常温に加えて冷蔵の荷物も運べます。
支店から担当する配送エリアまでの移動は約1時間。大体午前10時前後に配送エリアに到着後、配送スタートです。担当エリアには、商店や戸建ての一般住宅、単身者用のマンションなどが混在しています。数は少ないですがタワーマンションも建っています」
Aさんの担当エリアは、表通りを一歩内側に入ると、細い路地や行き止まり、一方通行の道路が入り組んでいます。加えて坂道や階段も多くあり、配送も一筋縄では行きません。
「トラックを街の内側まで乗り入れることが難しいので、基本的に表通り沿いにトラックを停めて、台車を使って配送しています。トラックを乗り入れるときは細心の注意を払って運転します。小学校があるので、制限スピード以下で走行するようにしたり、住宅街にエンジン音が響かないように、できる限り静かに走行したりするようにしています」
配送を終えて、担当エリアを後にするのは18時頃。約1時間かけて支店まで戻ります。
時間指定で夜も配送があるときは20時、21時まで担当エリアにいることも。支店に戻ってからも作業は続きます。荷卸しをしたり保冷材を保管場所に戻したり。代引きで回収した売上金を入集金機でカウントする作業もあるそうです。特に五十日(ごとうび)や月末は処理が集中し時間がかかるそうです。
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