粘度が低い油性インキのボールペンといっても、粘度が低いだけでは、なめらかで軽く心地よい書き味になるわけではありません。書き味には、ペン先の「チップ」と呼ばれる部分の構造や軸のデザインなども影響します。
そのため、それぞれのペンに個性があり、低粘度油性ボールペンと一言でまとめるのは無理があるくらい、違うコンセプトや狙いを持って作られています。
ぺんてるが「FLOATUNE」の開発をスタートしたのは2017年ですから、発売まで7年かかっています。すでにぺんてるには「エナージェル」という独自のゲルインキを使った人気商品もあり、なめらかでインキがたっぷり出るボールペンとして多くの人に愛用されているのですが、その次にくる新しいペンを作るというのが、開発の一番最初のコンセプトだったそうです。
「WOW!」というキーワードに向かって開発が進む
FLOATUNEの開発初期~中期のアメリカでの会議風景。ここでは、筆記感やデザイン案のヒアリングを実施した。最初から、コンセプトも機能もデザインもネーミングも、同時進行でひとつのチームとして開発が進められていたのだ
筆者は、2017年に「オレンズネロ」のデザイナーとして柴田さんにインタビューしていたのですが、そのときには、すでに「FLOATUNE」のプロジェクトは始まっていたわけです。
プロジェクトには、最初からインキの開発担当者も、ボールペンのチップなどの開発者もデザイナーも、ネーミングなどのコンセプトを立てるスタッフも参加し、専用の開発室まで与えられていました。
「デザインも『エナージェル』のリニューアルという方向で考えていたのですが、いろいろやっているうちに『WOW!』というキーワードが生まれて、さらにそのキーワードにぴったりの『ヌル3』という面白いインキが出来てきました。これはもう『エナージェル』じゃないよね、ということになって、そこから新しくデザインを考え始めました」と柴田さんが言います。
全部を一度に進めようというプロジェクトは、製品開発の手法としてもかなり珍しいものだと思います。
「どんどん変更があるのはある程度覚悟していましたが、ここまでとは思ってませんでした」と柴田さんは笑います。
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