母の言葉のせいで人生がうまく行っていない気がしている
こんな言葉を母親に言われ、それに従ってニコニコ「いい人」でいることを心がけてきた。そんな女性は少なくない。だが、それはある意味で「呪いの言葉」だ。
八方美人といじめられた中学時代
「母には子どものころから、誰にでも感じよく接しなさい、いつもニコニコしてかわいくいること。あなたは美人じゃないんだから、と言われていました。私はその言葉を守って、小さいころから愛想のいい子だった。小学校に入ってからもいつもニコニコ、誰にでも親切にしていたから小学生のうちはよかったんですが」そう言うのはサエコさん(33歳)だ。中学に入ると、クラスの中でグループができた。サエコさんはどこにも所属せず、誰にでも平等に接した。「どこでも誰にでもニコニコして八方美人だ」といじめられるようになった。
男の子からは人気があったのだが、それがかえって思春期の少女たちのやっかみを誘発したのかもしれない。
「グループなんて関係なく、みんなで仲良くすればいいのにと思っていました。もし私にもっとリーダーシップがあれば、それができたのかもしれない。でもリーダーシップはなかったから、みんなが言うようにヘラヘラしているだけに見えたんでしょうね」
いじめにはひたすらじっと耐えた。ニコニコしていれば、いつかみんなにわかってもらえると思っていた。母に相談しようと思ったこともあるが、自分の信念を疑わない母には何も言えなかった。
八方美人が災いして恋愛がうまくいかない
わかってもらえないまま中学を卒業して高校へ。「高校でも感じのいい人だよねというのが周りの反応。仲良しが数人いたので、なんとかしのいで大学へ行きました」
大学では何人かの男性にアプローチされたが、彼女が心動かされるような人には出会えなかった。「みんな仲良く、誰にも嫌われないように」することが大事だったと彼女は言う。
「自分が誰かを好きになったら、他のアプローチしてくれた人に悪いような気がしていました。今思えば、自らの意志で選ぶ、ということがあらゆることについてできなかったんでしょうね。情けない話です」
すぐに親しげに笑って距離を縮めるので、誤解されることも多かったという。女友だちに「好きでもない人にヘラヘラしないほうがいいよ。つけ込まれる。あなたの悪いところだと思う」と言われたときには、びっくりすると同時に何かが腑に落ちた。
>大人になってからも、言葉が自分を縛っている