暴力まがいのことが起きて
1年前、当時1歳だった娘と寝ていると、深夜、酔った夫が部屋に入ってきた。ぶつぶつと何か言っているが聞き取れない。「子どもが寝てるからとリビングに誘導しようとしたら、『おまえはオレをバカにしてるだろ』と叫んで。びっくりして泣き出した娘に、夫は自分のバッグを投げつけたんですよ。酔ってるから当たらなかったけど、私、それを見て夫を突き飛ばしました。夫は転倒したけど、そんなの知らない。娘を抱いて飛び出そうとしたら、夫が『ごめんなさい、ごめんなさい』と泣いて謝っている。その日は家にとどまりました」
ただ、どう考えても今後、一緒にやっていけるとは思えなかった。ユミコさんは職場復帰したばかりだったが、もう夫とは距離を置いたほうがいいと決めた。
次の日、実家でひとり暮らしをしている母に電話をした。母に頼るのも片腹痛いところはあったが、この状況ではしかたがなかった。
「母は、自分が天然で人に愛されていると思い込んでいるタイプ。世話好きだと言っていたけど、要するに私から見れば過干渉でしたね。それでも電話すると『そんなことなら早くこっちに来なさい』と。それで子どもを連れ、身の回りのものだけ持って家を出ました」
離婚はすんなり成立した。夫は最初は駄々をこねたが、慰謝料はいらないと言うとサインした離婚届を送りつけてきた。養育費だけは取り決めたかったが、「母が『どうして養育費を出さなければいけないのか』と言ってる」という理由で拒否された。どうしても欲しければ1度家に戻ってこいと言われたがそれは避けたかった。
「結局、何ももらわないままでした。これから私が必死で働けば、なんとかなると思うしかなかった。母も『私もパートを続けられるだけ続けるから』と言ってくれたんです」
「あんたが離婚してくれてよかった」
ところがこの母、以前とは違い、世話好きではなくて世話を焼いてもらいたい方向に変わっていた。兄やユミコさんが家を出てから、母は父に頼りきりで、家事もほとんど父がやっていたらしい。何ごとも人にやってもらうことに慣れてしまっていたのだ。「娘を保育園に迎えにいってごはんを作って食べさせる。そのくらいやってほしかったんですが、週に1回やってくれればいいほう。しかも私の仕事中に『歯が痛いの』と電話がかかってくる。歯医者に行けばいいじゃないですか。でも『ひとりで行きたくないから、連れてって』と。元気でパートもしている人が何を言ってるんだろうと思ったんですが、父はそういうとき連れていっていたらしい。人に甘える癖がついてしまったんでしょう」
あげく、ある時しみじみと「あんたが離婚してくれてよかったわあ」と言った。これにはユミコさんもムッとして「娘の離婚を喜ぶなんて信じられない」と言い返した。
「『だって私、ひとり暮らしが寂しかったんだもの。これから孫ちゃんが大きくなるから、私、もっと年とって動けなくなっても安心だわ』って。頼る気満々ですよね」
ユミコさんは娘とのふたり暮らしができないかと考えたが、娘の安全を考えれば、今の状況のほうがマシだと思い直した。今は、母にもう少し自立心を植えつけるにはどうしたらいいかを考え中だという。