骨折で半日放置された子も。「大規模化」する学童保育
2024年1月、全国連協が発表した「学童保育(放課後児童クラブ)の実施状況調査」によると、学童保育の入所児童数は、2013年に88万8753人だったのが、2023年には140万4030人となり、約1.6倍に増加。一方で学童保育の数は、2万1635から2万4493へと微増にとどまっていることとがわかりました。つまり学童保育の「大規模化」「大人数化」が起きているのです。 全国連協はこの調査のなかで、大規模化した学童保育では、「事故やケガが増える」「ささいなことでケンカになる」といった影響をおよぼす懸念があると指摘しています。
2023年春には、「子どもたちが部屋に押し込められ、ギュウギュウ詰めの劣悪な環境に置かれている」「骨折していたにもかかわらず、半日放置された子がいる」ことが報道により発信され、注目を集めました。
「子どもの数が多いと、分け隔てなくたくさんのお友だちと関われそうな気がするかもしれません。しかし実際は大規模化するほど、子ども同士の関係性は希薄になりやすいんです。大人の世界で例えるなら、同窓会。結局顔見知りの数人としか話さないし、全員が先生と話せるわけでもない。学童も同じで、子ども同士だけでなく、指導員との間でも親密な関係を築きにくくなります」(全国連協・佐藤さん)
定義が“あいまい”になりがちな学童保育……。本来の役割は?
学童保育とは、親が仕事などで家にいない小学生のための放課後の居場所。しかし実際には、かなりあいまいな定義で使われている言葉でもあります。もともとは「仕事を続けたい」「わが子に生き生きとした放課後を過ごしてほしい」という保護者の想いから生まれた学童保育。1950年代から全国各地に広がっていきました。国の施策名では「放課後児童クラブ」と呼ばれ、児童福祉法では次のように定義されています。
ちなみに、最近増えているビジネスとしての民間学童保育は、児童福祉法の定義には含まれません。税金の補助がないため料金は総じて高めですが、送迎が便利な駅ビルにあったり、英語やプログラミングを習えたり、独自のメリットを打ち出しています。「放課後児童健全育成事業とは、小学校に就学している児童であって、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して 適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業をいう」(児童福祉法第6条の3第2項より)
また自治体によっては、“親の就労に関わらず”子どもが安全な遊び場として利用できる「放課後子供教室」を実施しています。東京都品川区の「すまいるスクール」や神奈川県川崎市の「わくわくプラザ」がその一例です。学童保育と一体で運営されることも多く、区別があいまいなこともあります。
「待機児童がなくなること自体はよいことですが、問題なのは保育の中身です。子どもたちがどう過ごしているかを気にかけなければなりません」(全国連協・千葉さん)
全児童対策事業や放課後子供教室など、ほかの事業を学童保育の代替として活用し、待機児童ゼロとしている場合もあります。しかし目的が異なる事業では、施設・設備や職員配置、子どもへの対応など、学童保育を必要とする子どもの放課後の生活を守る内容が備えられていない場合もあり、本来の役割を果たすことができません。
また習い事感覚のビジネス学童保育は、親目線だと「通わせて安心」「時間が有効活用できる」など満足感は高いでしょう。しかし全国連協・千葉さんは、「小学生だからこその楽しさや自由も大事に考えてあげてほしいなと思います。大切なのは、放課後に子どもたちがどう過ごしたいか。そこに大人の価値観を押し付けていませんか」と問いかけます。
適切に子どもに関わることが困難に。指導員の葛藤も発生……
大規模化した学童保育では、指導の目が全体に行きとどかなかったり、適切に子どもと関わることが困難になったりして、指導員も子どもたちとの関係づくりに悩みがちです。「大規模になると、指導員が一人ひとりの子どもに心を寄せることが難しくなり、子どもをどう理解していけばいいのか、保育の悩みや葛藤も生まれやすくなります。けんかっ早い子や障害のある子など、手厚い指導が必要な子やその家族への理解も必要です」(佐藤さん)
人手不足のため十分な研修を受けられないままに現場へ出ることにより、イメージとのギャップに悩むことも多いといいます。
「学童保育の指導員は、子どもが好きというだけでは務まらない仕事です。子どもは大人の思うようには動いてくれないし、指導員に向かって暴言を吐くことだってよくあります。純真無垢なイメージは2~3日で崩れると思います」(千葉さん)
学童保育の集団規模は「おおむね40人以下」が理想
【左:1カ所、1支援の単位】1つの施設に、80名の子どもが入所していて、4名の指導員が配置されている【右:1カ所、2支援の単位】1つの施設ではあるが、2部屋に40名ずつ子どもをわけて、2名の指導員がそれぞれ配置されている(2024年1月「学童保育(放課後児童クラブ)の実施状況調査結果」より 画像提供:全国学童保育連絡協議会)
同じ40人規模でも、継続的に同じ子どもたちが利用している集団なのか、日によって子どもの入れ替わりがあるのかによって、安全性も変わってきます。
厚生労働省(現在は内閣府)の「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」によると、学童保育の基礎的な支援の単位は、「専任職員2人以上」「一定の規模の児童数はおおむね40人以下」「専用区画は子ども一人につきおおむね1.65平方メートル以上」となっています。
待機児童解消は働く親にとってはありがたいことですが、「保育の質」が保たれているかが重要です。集団規模や指導員の数が適正か、改めて見直す必要があるといえるでしょう。
【参考】
2024年1月「学童保育(放課後児童クラブ)の実施状況調査結果」(全国学童保育連絡協議会)