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災害時の避難所が抱える「臭い問題」を解決へ。京都の大学生と企業が生み出したソリューションとは(2ページ目)

自然災害の多発する近年の状況を背景に、京都工芸繊維大学 櫛研究室はUCI Lab.とパナソニックと連携して、避難所の衛生環境改善や避難生活の質向上を目指す「避難所の衛生ストレス解決プロジェクト」を実施。取り組みの内容を紹介します。

安蔵 靖志

執筆者:安蔵 靖志

デジタル・家電ガイド

生み出された4種類のプロトタイプ

今回のプロジェクトで最終的に生み出された4種類のプロトタイプは以下の通りです。

・消臭保冷バッグ
・スポット消臭カバー
・組み立て消臭クローゼット
・即席消臭コーナー


それぞれどのようなものか見ていきましょう。
保冷バッグ内にUSB給電で駆動するナノイーX発生器を入れて使う「消臭保冷バッグ」。「被災時には、例えばボランティア活動をされている方が繰り返し使うけれども、なかなか洗えないアイテムなどをこちらに入れると消臭効果が得られます」(畔柳助教)

ナノイーX発生器を入れて使う「消臭保冷バッグ」

1つ目は、保冷バッグ内にUSB給電で駆動するナノイーX発生器を入れて使う「消臭保冷バッグ」。モバイルバッテリーにつないだナノイーX発生器を中に入れて使います。

「被災時には、例えばボランティア活動をされている方が繰り返し使うけれども、なかなか洗えないアイテムなどをこちらに入れると消臭効果が得られます。日常の使い方としては、臭いの強い食材や、なかなか洗えないヘルメットなどを運ぶときに使うことを想定しています」(畔柳助教)
食事をハエなどの虫から守る「蠅帳(はいちょう)」にナノイーX発生器を入れて使う「スポット消臭カバー」。「開いた状態で中にナノイーX発生器を入れることで、下の空間を消臭できます。日常においては、子どもやペットがもどしてしまった時、応急処置的に拭き取った後に使うとか、なかなか洗えない布団やソファーなどの匂いを取るために使えます。ソールが汚れていて靴箱にしまいたくないスポーツシューズなどを、玄関の土間に置いたまま被せるという使い方を想定しています」(畔柳助教)

「蠅帳(はいちょう)」にナノイーX発生器を入れて使う「スポット消臭カバー」

2つ目は、ハエなどの虫から食事を守る「蠅帳(はいちょう)」にナノイーX発生器を入れて使う「スポット消臭カバー」です。
このようにナノイーX発生器がぶら下げられています。「被災時には、この中に靴やヘルメットなどを入れることが想定されています」(畔柳助教)

ナノイーXがぶら下げられている様子

「開いた状態で中にナノイーX発生器を入れることで、下の空間を消臭できます。日常においては、子どもやペットがもどしてしまった際、応急処置的に拭き取った後に使うとか、なかなか洗えない布団やソファーなどの匂いを取るために使えます。ソールが汚れていて靴箱にしまいたくないスポーツシューズなどを、玄関の土間に置いたままかぶせるという使い方も想定しています」(畔柳助教) 
プラスチック段ボールにナノイーX発生器を入れて使う「組み立て消臭クローゼット」。「プラスチック段ボールでできており、たたむと45cm四方くらいで大きめのトートバッグに入るサイズになります。日常的な使い方としては、例えばレジャーで煙の匂いが付いたアウターを入れる、洗いにくいウールの衣類を毎晩かけておくといったことを想定しています」(畔柳助教)

プラスチック段ボールでできた「組み立て消臭クローゼット」

3つ目は、プラスチック段ボールにナノイーX発生器を入れて使う「組み立て消臭クローゼット」です。

簡単に分解できます

簡単に分解でき、折りたためば大きめのトートバッグに入ります

「プラスチック段ボールでできており、たたむと45センチ四方くらいで大きめのトートバッグに入るサイズになります。日常的な使い方としては、例えばレジャーで煙の匂いが付いたアウターを入れる、洗いにくいウールの衣類を毎晩かけておくといったことを想定しています」(畔柳助教)
デスクの上にブルーシートをかぶせて密閉空間を作り、ナノイーX発生器を入れて使う「即席消臭コーナー」

デスクの上にブルーシートをかぶせて作る「即席消臭コーナー」

4つ目は、デスクの上にブルーシートをかぶせて密閉空間を作り、ナノイーX発生器を入れて使う「即席消臭コーナー」。

「ブルーシートを長机にかぶせて、下の空間にナノイーX発生器を入れることで、中の空間全体を消臭できます。繰り返し使って臭いが付いてしまった長靴やヘルメットのほか、長机の下のバーを使えばタオルなども掛けられます。これは家族ごとというより、避難所全体で一箇所設けて共有で使うことを想定しています」(畔柳助教)
使い方のコツ

全タイプ共通の使い方のコツ


これらに共通する使い方のコツは、ナノイーXが中にとどまるように通気性のない素材で覆ってできるだけ密閉すること、臭いを取りたい対象物の間隔を開けてナノイーXが満遍なく伝うようにすることだそう。

「空間内におけるナノイーXの濃度が一番のポイントになるので、臭いがなかなか取れなければ時間を延長する、あるいはナノイーX発生器を追加することで効果を高められます」(畔柳助教)
 

避難所生活の臭いを除去へ。フィールドワークの結果は

できあがった4種類のプロトタイプは、本当に避難所生活で出た臭いを消臭できるのでしょうか。2023年12月、福岡県の大牟田市、八女郡広川町に赴き、フィールドワークを実施したといいます。

フィールドワークについて渡辺氏は、「被災地における臭いは、なかなか言えない、我慢している人がたくさんいて、これに取り組むことにとても共感をいただきました。このプロトタイプを紹介することで、現場ならではの未解決だった悩みが顕在化されたり、新たなお話やアイデアを聞けたりと非常に有益でした」と語りました。

福岡県八女郡広川町は2023年7月に水害が発生。その際に使用していた道具類の臭いが実際に取れるかどうかを実験しました。
福岡県八女郡広川町に3種類のプロトタイプを持ち込んで実験しました

福岡県八女郡広川町に持ち込んだ3種類のプロトタイプ

持ち込んだプロトタイプは消臭保冷バッグと即席消臭コーナー、組み立て消臭クローゼットの3つ。実験にはバンド部分が汗で濡れてしまうヘッドライト、倉庫に処分予定で保管されていた古いタオルなどを用いました。 
6段階臭気強度法による評価の結果

6段階臭気強度法による評価の結果


渡辺氏は結果について、「6段階臭気強度法という方法で実験を行いました。比較対象と1以上の差があれば、ほとんどの人が差を実感できるというものです。3つとも3前後の臭いが良くなる効果が得られて、最後の方は『ほぼ素材の臭いしかしない』という声も聞かれました。現場の方に『正直こんなに効果が現れるとは思っていませんでした』と非常に驚かれましたし、実験をずっと続けていた我々の方でも驚くほどの効果がありました」と語りました。

プロジェクトと広川町の社会福祉協議会は、2024年夏に共同実証実験を行う予定とのことです。

「これらのプロトタイプを現場でも実際に使ってもらい、さまざまなフィードバックをもらって夏に向けて改善していきます」(渡辺氏)

パナソニックの「ナノイー」や「ナノイーX」は、空気清浄機など同社のさまざまな製品に搭載されており、特に閉鎖空間では除菌・消臭ができることが知られています。ハンガータイプの「脱臭ハンガー」、靴に入れて使える「靴脱臭機」、今回のプロジェクトに用いた「コンパクト脱臭機」など、それらを用いた「電気脱臭機」もラインアップ中です。

今回の「共創デザイン」は、生活者の困りごとを探索して解決する方法を探り、我々の日常生活でなじみのある普通の生活アイテムを組み合わせて実現させるものでした。被災地の避難所という非日常空間において、老若男女が難なく使いこなせるという意味で、かなり秀逸なデザインだったのではないでしょうか。実証実験の先に、こうした取り組みが社会に実装されていくことを期待したいです。
     


 

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