P連退会を決めたいちばんの理由はおカネ
その存在をあまり知られていない、PTAの連合組織である「P連(ピーれん)」。P連とは「PTA連合会」の略称で、その名の通り「各校のPTAの集合体」を指します。市区町村郡、都道府県、全国単位で存在し、「○○市PTA連絡協議会」「△△区立小学校PTA連合会」「□□PTA協議会」などさまざまな名称で呼ばれています(以下「P連」と記述)。P連の多くは、「各校PTAの横のつながりをつくり、地域に情報発信する」「学校横断的な声や要望をまとめ、行政に伝える」などを目的に、研修会や講演会の開催、広報活動、地域行事の開催などを行っています。
しかし、近年その存在意義が問われ、各地で退会が相次いでいます。
「退会を決めた一番の理由は、おカネ。分担金の支払い負担が大きかったことです」というのは、北九州市内の公立小学校で8年間PTA会長をつとめた田中裕三さん。
2022年5月、それまで加入していた北九州市PTA協議会から退会しました。
P連の活動資金の一部は、各校のPTA会費から出ています。 例えば、「市区町村郡のP連」に加入している各学校のPTAは、P連の運営資金として、保護者からおさめられるPTA会費の一部を「分担金」として支払う仕組みになっています。金額は地域により異なりますが、児童ひとりもしくはひと世帯につき年額10円単位~100円単位が多いようです。
「北九州市では、2021年度は児童ひとりにつき200円の分担金を支払う仕組みでした。児童数は300人で計6万円。これに加え、市内の小学校の校区が7つに分かれており、区への分担金もありました。これらを足すと、1年間で約10万円の支出になります。この10万円で子どもたちに何らかのメリットがあるかといわれたら、ほとんどありませんでした」と、田中さん。
P連からの“充て職”に対応する余裕がない
北九州市では、教育委員会からの通達により、子どもの入学と同時に自動的にPTAに加入する「強制加入制」から、加入・非加入の意思を確認する「任意加入制」に移行。田中さんが会長をつとめるPTAでも、「任意加入制」への移行に伴い、「委員会をなくす」「必要なときにできる人がスポット的に参加してもらう」などの体制にし、活動の簡素化を図りました。その結果、2021年度、全保護者に入会の意思確認を行ったところ、加入率は30%に。
「PTA会員が大幅に減り、役員メンバー6人で細々と運営する状況も、P連からの退会の決め手になりました。なぜなら、P連に加入していると、いわゆる“充て職”が回ってきて、行政への出向や地域行事の運営スタッフとして駆り出されることが多いのです。PTAの規模が大きく縮小するなか、それらの活動に対応する余裕はありませんでした」
田中さんは続けます。
「地域のP連の役割は、行政や教育委員会に対して子どもたちの教育環境の改善を要望し、しっかりと予算をつけてもらうことだと思います。しかし、当時のP連は、各校のPTAから寄せられた教育改善提案をまとめて行政に提出するだけで、その後の議論につながっていないように感じました。こうした形だけの活動に疑問を感じたことも、退会理由のひとつです」
「輪番制」でP連の役職が回ってくる
P連役員の任期は1~2年が多いもの。改善まで手が回らない活動の役職が、輪番制で回ってくるなどのケースも少なくありません。「本当はやりたくないのに仕方なく学校のPTA会長になった」という保護者が、「輪番だから」という理由で、P連の会長を兼任しなければならないケースもあるのです。
「何度かP連の会議には出ましたが、いろいろな審議事項があっても意見をする人はほとんどいませんでした。理事といっても輪番で担当が回ってきた方が多く、発言するのは同じ方ばかりで議論になりません。“スルー可決”されることが多く、結果的に組織が活性化されにくいことが見てとれました」
役員メンバーと校長先生に相談して退会の承諾を得た田中さんは、北九州市PTA協議会に退会届けを提出しました。 「退会にあたり、北九州市PTA協議会の規約を改めて見直したのですが、『退会は任意です』『この規約に対して違反する者は除名処分といたします』という記述がありました。『P連からの退会について、だれも止める権利はない』と解釈し、満を持して退会届けを提出することができました」
「退会によるデメリットを感じたことはない」
一方で、北九州市PTA協議会を退会したことで、ネックがひとつありました。同協議会が販売している個人賠償保険が使えなくなったことです。そこで、田中さんが会長をつとめるPTAでは、2023年1月に発足した「一般社団法人 全国PTA連絡協議会(=以下、全P)」に登録し、全Pが販売する個人賠償保険に加入しました。
「全Pは、地域のP連を退会した学校のPTAが単独で無料で登録することができます。校長先生にお話しして許可をいただき、全Pが販売している各校PTA向けの個人賠償保険を契約することにしました」と、田中さん。
北九州市PTA協議会を退会して約2年たちますが、「退会によるデメリットを感じたことは一度もありません」といいます。
地域のP連の現状と課題はさまざま
北九州市と同様に、各校のPTAが地域(市区町村郡)のP連を退会するケースが、全国で増加傾向にあります。共働き世帯の増加により、PTA活動に参加する時間や労力がない保護者が増えていることによる人手不足、任意加入制の認知による加入率の低下に拍車がかかっています。「分担金や充て職が負担」「自校のPTA活動に手いっぱいで、地域のP連の活動にまで手が回らない」という実情が一因となっていることは否めないでしょう。
いっぽうで、PTA経験が豊富な保護者をリーダーにすえ、活動の省力化、適正化、オンライン化など、年月をかけて少しずつ時代に即した風土を醸成しているP連も存在します。
地域のP連の現状と課題は、その地域によりさまざまです。
子どもが通う学校のPTAは、地域のP連に加入しているのか、加入している場合、どのような組織でどのような活動をしているのかをインターネットなどで調べたり、役員に聞いたりして確認してみましょう。
都道府県、全国レベルのP連から退会の事例も
同様の理由で、「市区町村郡のP連」が、「都道府県P連」やPTAの全国組織である「日本PTA全国協議会」といった「大きなP連」を退会する事例も出てきています。これまでに、愛媛県松山市、高知県高知市、岡山県岡山市、岡山県倉敷市、奈良県奈良市、神奈川県横須賀市などのP連が、県P連を退会しています。また、東京都の小学校PTAを束ねる「東京都小学校PTA協議会」が2023年3月にPTAの全国組織である「日本PTA全国協議会」を退会。さらに、さいたま市内の国公立小中特別支援学校PTAを束ねる「さいたま市PTA協議会」、千葉市内の小中学校PTAを束ねる「千葉市PTA連絡協議会」が、「日本PTA全国協議会」からの退会を表明しています。
P連は、保護者にとって馴染み薄い存在であり、活動内容が理解されにくい側面があります。しかし、P連に関わり活動しているのも、同じ保護者です。P連の存在意義や役割について改めて考え、組織運営の改革、参加しやすい環境づくりなど、時代に合わせて進化させていくためにはどうすればよいのかを議論する必要があります。