大雑把でがさつな妻
似たような事例を、夫側からの立場で考えると、また別の風景が見えてくる。「こういう言い方をすると怒られるかもしれないけど、うちの妻はけっこうがさつなんですよ」
ケンジさん(40歳)は笑いながらそう言った。がさつで大雑把な妻は学生時代からの友だち、気楽な関係でふだんは仲がいいそうだ。
「ただ、大雑把はいいけどがさつすぎるところがあるので、ちょっと困るんです。たとえば食器の扱いとか。結婚して8年、どれくらい皿を割ったことか……。今は100円ショップの皿しか買いません」
義実家でも妻のがさつスイッチON
家でならまだいい。ケンジさんの実家に行くと、気軽に「手伝いますよ」とキッチンに行くのだが、あるとき母の大事にしていたお皿を欠いてしまった。「皿が重なっていて、そこから1枚取り出すときに、いったん全部出してから目当ての皿を取ればいいじゃないですか。それを妻はそのままの状態で、皿を抜こうとするんですよ。そりゃ落ちたり欠けたりしますよね」
あらあ、いけると思ったのにと妻が言ったとたん、母親の顔色が変わった。大事なお皿なのに、ずっと大事にしてきたのにと。
「『そんなに大事なお皿なら、こんなところに置かないでしまっておいたほうがいいですよ』と妻が言ったんです。それは正論すぎて、父が吹き出してしまった。でも母にとっては火に油状態。その日、母は料理を途中でやめて寝室にこもってしまいました」
妻に悪気はなく、とっさに言ってしまった一言だったのだが、母が傷ついたこともケンジさんには理解できた。その後、妻も自分が至らなかった、何重にもお義母さんを傷つけたと謝ったのだが、母の怒りはなかなか解けなかったという。
「失敗したらひたすら謝る。これが基本ですよね。失敗しておいて相手に非があるような言い方をしたら、そりゃ相手は怒るはず。妻にはその気遣いが欠けているんです。僕はわかっているからいいけど、僕以外の人間にそれをやってはいけないよと諭しました。
『うっかりした』と反省していましたが、妻は物にこだわりがないタイプ。形あるものは壊れるといつも言っている。それも正しいけど、物を大事にすることも教育上は必要だから気をつけたほうがいいとは言いました」
物へのこだわりがある人に、壊しておいて形あるものは壊れると言ったら激怒されるに決まっている。価値観は人によって違うのだから。
「それ以来、母からは『彼女は来なくていいから』と言われるようになってしまいました。ときおり僕は子どもだけ連れて実家に行っています。でも妻は行かなくてすむようになってホッとしているみたい。どこまでも大雑把(笑)。いいのか悪いのかわかりません」
ケンジさんは困惑したように少し笑った。