Q. 「だし」とは、結局何ですか?
和食に欠かせない「出汁(だし)」とは、簡単に言うと何なのでしょうか?
Q. 「和食の『だし』って結局、何なのでしょうか? 使わないと何となく物足りない感じがするので、普段からあまり考えずに、顆粒タイプやパックタイプのものを何にでもよく入れています。出汁を使うのは日本人だけなのでしょうか?」
A. 動植物食材から「うま味成分」を抽出した液体で、本能的に満足感を得られる「味」です
「だし」は、漢字で「出汁」と書くように、動植物食材からうま味成分などを抽出した液体のことです。和食には欠かせない「だし」ですが、実は日本特有のものというわけではなく、世界に目を向けると、フランスの「ブイヨン」や中国の「湯(タン)」なども、基本的にはだしと同じ原理で作られているものです。だしやスープは、先人たちの知恵と工夫によって作り出されたものですが、化学分析をしてみると意外と単純なことが分かります。それらのうま味の元は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸や、核酸関連物質のイノシン酸とグアニル酸です。これらの成分は、それぞれ単独でも、私たちの舌に用意された「うま味受容体」に作用して、「うまい!」という感覚を生じることができますが、グルタミン酸+イノシン酸またはグアニル酸という組み合わせで一緒に食すると、相乗的にうま味が強くなることがわかっています。
和食のだしは、グルタミン酸を豊富に含んだコンブと、イノシン酸を豊富に含んだカツオ節を組み合わせて作ります。西洋料理や中国料理では、グルタミン酸源として野菜、イノシン酸源として肉類を組み合わせます。各国の料理に使われるスープは一見違うように思われますが、実は
ずっと昔から各地域で利用できる食材を厳選しながら「うまいスープを得るにはどうしたらいいか」を経験的に追及したところ、基本的には同じものに行き着いていたというのは、面白いですね。
ただ、西洋料理や中華料理のスープでは、たくさんの食材を鍋に入れてひたすら煮込むという、どちらというと豪快な作り方をしますが、和食のだしは、コンブの生産地にこだわったり、手間ひまかけて作ったカツオの本枯れ節(カビ付けした節)を削って用いたりと、かなりのこだわりをもって工夫が重ねられ、独自の食文化として発展してきました。だしの取り方ひとつを見ても、それぞれの国や地域の精神性や文化の影響があるのでしょう。
うま味の元となるアミノ酸のグルタミン酸を私たちが「うまい」と感じるのは、生まれながらの本能です。何も食した経験がない赤ちゃんでも、口にしたときに満足感を得られます。これは、動物が生きていくために必要なタンパク質とそれを構成するアミノ酸を積極的に摂取するために用意されたしくみと考えられます。ところが、かつての日本には動物性食材、油脂や砂糖が乏しかったため、他の食材から満足感を得られる「おいしさ」を苦労して追求した結果、「コンブ+カツオ節」という黄金の組み合わせを見つけられたのでしょう。そして、季節の野菜などにだしのうま味を付けて、素材そのものを楽しむ洗練された食べ方が生まれたのではないでしょうか。
世界に誇れる和食のだし文化を大切にしていきたいですね。