2023年、多くのユーザーが「つながらない」状況に
国内で最も多くの契約数を抱える携帯電話会社として知られるNTTドコモは、全国津々浦々に張り巡らせた品質の高いネットワークで、都市部だけでなく地方でもつながることが長年人気を獲得する理由となっていました。ですが2023年、そのNTTドコモのネットワークに、非常に大きな問題が起きました。それは大都市部を中心に、NTTドコモの通信品質が著しく低下したこと。実際SNSなどではNTTドコモのユーザーから「つながらない」「遅い」といった声が急増。筆者の周りでも、通信品質が大幅に落ち、不満を募らせる声が頻繁に聞かれるようになっていました。
NTTドコモの通信品質が低下した理由は2つある
一方、KDDIやソフトバンクなど他社回線を利用しているユーザーからは、そうした声が上がることはありませんでした。なぜNTTドコモだけが著しく通信品質を落としたのかといいますと、理由は大きく2つあるようです。1. コロナ禍後の需要読み違え
1つはNTTドコモが、コロナ禍明けのデータ通信需要を読み違えたことです。
2023年はそれまで猛威を振るっていた新型コロナウイルス感染症の影響が弱まり、5月8日に「2類相当」から「5類」の感染症へと移行して外出の自粛やマスクの着用などが求められなくなったことで、人の流れが急回復した年でもあります。
それゆえ、人流回復に伴って外でスマートフォンを利用する人が再び増えたのですが、コロナ禍でスマートフォンでの動画視聴などが生活習慣として定着した人が増加。その影響から外で大容量通信をする人が、コロナ禍前より大幅に増えたようです。 KDDIやソフトバンクは、ユーザーの同意を取った上で、自社系列のスマートフォンアプリなどから端末の通信品質を取得・分析し、通信量が急増する傾向をいち早く察知して対策を進めていました。
ですがNTTドコモはそうした取り組みをあまりしていなかったため通信量の急増を察知できず、対策が遅れた結果、通信品質を大きく低下させてしまったようです。
2. 「瞬速5G」基地局整備の遅れ
そしてもう1つは、新しい通信規格「5G」の整備が思うように進められなかったことです。
実はひと口に5Gといっても、4Gまでに使っていたプラチナバンドなど、低い周波数帯を使って整備する5Gと、5G向けに新たに割り当てられた3.7GHz帯など高い周波数帯を使って整備する5Gの2種類が存在しています。
前者は周波数が低く広範囲をカバーできるものの通信速度は4Gと同じで、5Gらしい高速通信は実現できないことから「なんちゃって5G」などと呼ばれることもあります。
それゆえNTTドコモは、後者の5G向けに割り当てられた、帯域幅が広く高速大容量通信が可能な高い周波数帯を用いた5Gのネットワーク整備に力を入れ、「瞬速5G」とうたいその優位性をアピールしていました。 ですがNTTドコモは、とりわけ都市部で瞬速5Gの基地局を整備するのに苦戦していたようです。それは基地局を設置するビルなどのオーナーから、5Gの基地局を設置するための許可を思うように得られなかったこと。
既に4Gの基地局を多数設置している中にあって、さらに5Gの基地局を設置するとなると耐震性などに影響が出てしまうことから、許可がなかなか下りず基地局を予定通り設置することができなかったようです。 その結果、本来ならば急増したトラフィックを5Gで吸収できたはずが、基地局整備が進まなかったため既存の4Gネットワークに流れてしまい、そちらが混雑して通信品質低下に至ったようです。
急ピッチで改善を図るも、課題は?
NTTドコモもそうした事態を非常に問題視しており、急ピッチで対策を進めてきました。中でも特に通信品質の低下が著しかった東京都心の渋谷、新宿、池袋、新橋の4エリアについては2023年夏までに対策を進め改善を図っています。 ですがNTTドコモはより抜本的な対策をするため、300億円を先行投資し2023年末までに設備の増強を図るなど、全国のネットワーク通信品質対策を実施。具体的には全国2000ヵ所以上の基地局と、主要な鉄道動線に向けた対策を実施しています。 さらに同社のネットワークは、大規模イベント時も「つながりにくい」との声が多くあったことから、2023年末に実施された「コミックマーケット103」などでは5Gに対応した移動基地局車を前回の3台から4台に増やし、さらに屋外にも5Gの常設基地局を増設するなど通信品質対策にかなり力を入れていました。それだけに今後実施される大規模イベントでも、同様に通信品質対策を強化してくるものと考えられます。
2023年末に実施された「コミックマーケット103におけるNTTドコモのネットワーク対策の様子。移動基地局車を増やすなどして、会場だけでなく屋外で入場を末待つ待機列に向けてのトラフィック対策を進めていた
まずは同社のスマートフォン決済アプリ「d払い」のデータを活用して分析を進めるとのことですが、今後は他のアプリを用いての分析も進めていくようです。 ですが5Gの基地局設置に関しては、設置場所を確保するのに依然苦労しており、思うように整備が進まない状況は大きく変わっていない印象を受けます。NTTドコモの今後の通信品質向上は、瞬速5Gのネットワーク整備が順調に進むかどうかに大きくかかっているといえそうです。