次第に明らかになる男の本性
彼は単身赴任だったから、夕飯後、「もうちょっとだけ飲まない?」と誘われ、軽い気持ちで彼が住むマンションに行ってしまった。「会社の寮だと聞いていたんですが、行ってみたら借り上げマンション。だから会社関係の人がいるわけではなく、彼は2LDKにひとりで住んでいました。最初は友だちのノリで飲んでいたんですが、そのうち彼に迫られて……。きれいだ、素敵だ、高校時代より今のほうがずっといい女だと言われ続けて、私もその気になってしまいました」
ところがその翌日から、彼は1日に何度も連絡を寄越したり、夜もメッセージを送ってきたりするようになった。返事をしないと「僕のことが嫌いになったの?」としつこく言ってくる。深夜に電話をかけてくることもあった。そんな日に限って、夫は早く帰っている。
「こういうのは困ると彼にはさんざん言ったんです。でも彼は『僕がユキちゃんのこと、どのくらい好きかわかってない』と拗ねて。彼にも妻子がいるんですよ。お互いに家庭があるんだから、ルールを守ってつきあおうよと言うと、『オレにはユキちゃんしかいない。家庭は壊れてる』と」
愛と執着の区別がない「粘着系」男
会社の近くをうろうろされたこともあるし、ユキちゃんにあげたくてと大きな花束を道で渡されたこともある。持って帰るだけでも大変で、ユキさんには彼が何もかも自己満足でやっていることだとしか思えなかった。「私に執着しているだけで、しかもそれは私でなくてもいいのかもしれない。決して愛情ではないんですよ。そのころ何かを感じたのか、夫がけっこう早く帰宅するようになっていたので私も早く帰宅する日々が続いたんです」
すると彼はある晩、「今、家のすぐ近くにいる」と連絡してきた。「忘れ物があるからコンビニに行ってくる」と家を飛び出したユキさんは、彼を見つけて思わず文句を言った。
「こういうことはやめて、と怒ったんです。すると彼は『僕と結婚しよう』って。結婚しているくせに何を言っているのと言うと、離婚するからきみも離婚してほしいと。私は子どものために離婚はしないと断言しました。すると彼は泣き出してしまって。帰ってと言っても泣きながらついてくる。思わず駅のほうへ歩いて行って、駅前の交番で『これ以上、しつこくしたら警察に言うから』と脅しました。彼はとぼとぼと駅の中に消えていった」
翌朝、彼女は彼に別れのメッセージを送り、すべてのSNSや電話をブロックした。それでも彼が何か言ってきたりまた家に来るのではないかとビクビクする日々が続いたという。
「夫とは今、可もなく不可もなく、相変わらず帰宅が遅い日もあるけど、やはり娘はかわいいんでしょうね。本人がやりたいという習い事をさせたり、いいお父さんではあるので、家族という関係は続いています」
あの恋愛に関しては、結局、「恋ではなかった。私自身、寂しかったから彼に頼ってしまっただけだと思う」と結論づけている。
「あんな関係は何の慰めにもなりません。自分が不幸な気持ちでいると、相手を見る目も濁ってしまうのかもしれません。我ながら情けないことをしたと思っています」
つい先日、高校時代の同級生と電話で話す機会があり、それとなく彼のことを聞くと、彼は単身赴任を終えて地元に戻ったという。彼が離婚したという話はない、あの家族はけっこう仲良しだとその同級生は言った。