ひとりで完結する趣味ばかり
「いいんですよ、何をしようと。ただ、うちはまだ年金がもらえない。週3回の勤務じゃ夫の小遣いにしかならない。たいしてない貯金や退職金を取り崩すしかないわけです。夫にどうするのと言ったら、『5年間くらいきみがなんとかしてよ』って。は? 私はパートですけど、今までは家計の足しにしてきたけど、これからは私だって小遣いがほしい。すると『子どもたちに生活費を出してもらおう』って。たいして家で食事もしないのに、子どもたちからは食費をもらっています。それは彼ら用に貯金してある。いつか困ったとき、何かしたいときに渡すつもりで」しかも夫は、次第に釣り竿を磨いておいてとか、筋トレで使ったウエアを洗っておいてとか、趣味周りのことをアイコさんに頼んでくるようになった。
「あなたが定年になったということは、私もそれなりに体にガタがくる年齢になってる。これ以上、私に面倒をかけないで、やることを増やさないでと言いました。その代わり、私はパートを増やして、最近は早朝から働いています」
子どもたちがこっそりといくばくかを渡してくれるが、それはやはり遣う気になれないと彼女は言う。
「趣味を広げていくのはいい。でも夫がやっているのは、全部ひとりで完結する趣味ばかり。人と交わろうとしないし、収入ががた落ちなのに趣味にお金を遣うしで、老後の計画が立たない。『もういつ死んでもおかしくないんだから、好きなようにしたい』と言うけど、せめて年金をもらえるまでは緊縮財政しなければ老後破綻だよと説得しています。あまり響いてないようですけど」
つい先日、夫は『家を売ってもいいかもしれない』と言いだした。家を売るなら半分ちょうだい、それで離婚しようと言ったら夫は黙ってしまった。
「老後も僕が面倒みるの?」と夫
定年を迎えて「やりきった」気持ちから、生活を変えたくなるのはわかるとアイコさんは言う。だが平均余命や年金額を考えると、そんなに贅沢はできない世代なのだ。そこを夫は実感としてわかっていない。「自分の務めは終えた、あとは任せるという感じ。それならそうと言ってくれれば、私だって準備はしていたけど、てっきり65歳までは若干給料が減っても今まで通り働いてくれると思っていたから……。先日は『老後も僕が生活のすべてを面倒みるの?』と真顔で言われて、なんだか悔しくてたまらないんです」
老後破綻などが叫ばれる今、定年まで勤め上げても、その後は不安定な日々を送る人たちが多いのは事実だ。夫に頼っていた妻が悪いのか、最後まで働き続けない夫がいけないのか。いずれにしても事前に話し合っておかなければならない問題である。