PTAに加入を義務づける法的根拠はない
子どもの入学と同時に自動的に入会し、自らの意思に反して役員・委員の仕事を“やらされる”イメージが強いPTA。しかしPTA活動は本来、やりたくなかったり、理由があってできないのに嫌々やらされたりするものではありません。 筆者はこれまで、PTAに関する取材を重ねながら、SNS上のコミュニティ「PTAの今を楽しく知る会」を立ち上げ、不定期にオンラインイベントを開催してきました。2023年10月には、全国の小・中学校PTA会長経験者6名が一同に集まり、「任意加入制にして見えてきた! PTAの今とこれから」をテーマにグループディスカッションを実施。登壇者のコメントをまじえながら、今求められているPTAの形をひもといていきます。
熊本PTA裁判をきっかけに、近年じわじわ広がる「任意団体」
PTAは「Parent Teacher Association=保護者と先生(教職員)の会」の略で、社会教育法10条で規定される「社会教育関係団体」のひとつ。保護者(=P)と教職員(=T)が協力して子どもたちのすこやかな成長を支えることを目的とした「入退会自由の任意団体」で、加入や会費の納入を義務づける法的根拠はありません。この「任意団体」という言葉が広まったのは、2014年の熊本PTA裁判。熊本県の学校のある保護者が、「同意書なしに強制的に加入させられ、会費を徴収された」として、PTAを相手に会費返還を求める裁判を起こしました。
その後、2017年に和解が成立。双方が合意した和解条項のひとつに「PTAは入退会自由な任意団体であることを認識し、十分に周知すること」が挙げられたのです。これを機に改めて「PTAは任意団体であり、その周知が必要である」ということが広く認知されるようになりました。
また2023年7月には、鹿児島県立高校の教員が、同意がないままPTA会費を給与から天引きされたとして、校長と元PTA会長を相手取り、会費返還を求める少額訴訟を起こしています。
本来、入退会自由の任意団体だけど、実態は……
専修大学法学部教授で、東京都世田谷区の公立小学校で3年間PTA会長をつとめた岡田憲治さんは書籍『政治学者、PTA会長になる』の中で、自らの体験を通し政治学者の視点から、今の時代に合うPTAについて、「PTA問題は自治の問題である」と著しました。岡田さんは、「私たちの生活の中の言葉に置き換えると、任意団体は次のように表現できるでしょう」と言います。「『任意』とは、『出入りも運営も自由で、自分たちでルール決めをして納得合意されない限り、強制される根拠がない』こと。『任意団体』とは、そこにいる人たちみんなで自分たちのことを決めたり、新しい仲間を迎えたりしながら幸せになるための“仲間”です。PTAの本質は、共通の趣味や興味を持つ人々が協力して活動する『サークル』と同じです」
つまり、会の趣旨に賛同し、「入会したい」と思った人が会員となり、主体的に活動するのが本来の姿なのです。
しかし、1945年にアメリカから伝わり、70年以上もの歴史をもつPTAは、母親が参加する前提のもと長らく前例踏襲的な運営が続いてきました。任意であるはずなのに意思確認なく入会し、会費が自動的に引き落とされる、役員や委員の選出方法が強制的であるなど時代に合わない運営が続き、課題が残るPTAが少なくないのです。
では、このような実態から脱し、「任意団体」に移行するためには具体的にどうしたらいいのか、次よりそのポイントや注意点を解説していきます。
「自動加入制」から「任意加入制」に移行するには?
自動加入制から移行するには、新学期にPTA本部より、任意加入制について記した書類と「PTA入会申込書」を保護者・教職員に配布し、加入か非加入かを回答してもらうケースが多いようです。ただし、と注意を促すのは、元京都市PTA連絡協議会会長の大森勢津さん。
「移行は、PTA活動の適正化と“両輪で”進めていく必要があります。強制的な側面を改善し、多くの保護者が参加しやすい運営について、PTA本部での話し合いはもちろん、学校とも対話を重ね、自校のPTAの在り方についてていねいに発信し、理解を促すことが大切だと思います」
移行は、任意加入でも参加したいと思える団体になっているのか、時代にあった運営であるか、などを見直す良い機会といえます。
意思確認をすると、会員数減少や「なり手不足」に陥るのでは?
加入・非加入の意思確認をすると、これまでの加入率100%からその割合が減り、80%前後になるケースが多いようです。「活動を見直した上で、集まった会員と会費でできることをすること、加入・非加入問わず、子どもたち全員を活動の対象とすることを新学期に説明し、意思確認を行っています。任意加入に移行して4年目の2023年度現在、加入率は86%です」というのは、練馬区立貫井中学校PTA会長の入江宏基さん。
活動内容の改善や会員の負担軽減などの工夫が、スムーズな移行につながるといえます。
一方で、役員や委員決めも会員の主体性に委ねられるため、「なり手不足」が課題になることもあります。しかし、仙台市立田子小学校PTA会長の村松稔さんは、人数が減ったことでこれまでよりも活動がポジティブになったといいます。
「仕方なく選ばれた人が大勢集まるよりも、少人数でも熱量をもった人で活動する方がこれまでよりも意義のあること、楽しいことができると実感しています。できる人ができる活動を前向きに行うことで、手伝うよという声があがることも多いのではないでしょうか」と任意加入制の醍醐味について語ります。
風通しがよい組織になり、子どもの放課後遊びをサポートしたり、受験についてのおしゃべり会を開いたりなど、“今”必要な活動が新たに生まれるPTAもあるようです。
「強制を排除したことで、主体的な保護者が先生と力を合わせながら、前例踏襲にとらわれずやりたいことを実現しやすくなってきていると思います。結果、委員のなり手も以前より増えました」と、逗子市立逗子中学校PTA前会長の大本一枝さん。
保護者の加入意志を尊重することは、新しい活動が生まれたり活動の活性化につながったりする可能性を秘めています。
会費は入会した保護者だけが払うもの? 非加入の子どもに不利益は?
PTAは、「入会届」の提出をもって会員となり、その学校のPTAが決めた会費を支払うのが本筋です。非加入の保護者・教職員は、会費を支払う義務はありません。しかしPTAの支援は、その学校に通う全ての子どもたちが対象です。「非加入家庭の児童生徒を登校班から外す」「記念品を配らない」など不利益な扱いがあってはなりません。
そこで『PTA会費』という名称変更をしたと話すのは、八王子市立小学校PTA連合会顧問の櫻井励造さん。
「『PTA会費』という言葉から、“払わされる”といった義務感を感じたり、“なんらかの見返りを”と考えたりするケースも起こりえるため、『活動寄付金』という名称に変更しました。言葉の響きを変えただけですが、PTA本来の目的を皆で共有しやすくなるのではないでしょうか」
PTA会費は、子どもたちの活動を支えるための資金です。義務感や見返りを求める心理を避けるため、このような工夫も有効でしょう。
仕事や家事で忙しい保護者も、子どもたちに充実した学びの環境を提供したいという思いは変わらないはずです。「できる人が、できるときに、できることを」を前提に、子どもたちのために何をすべきか。保護者と学校で、改めて対話を重ねることが必要な時期にきています。