20代後半に夢中になった彼とは結ばれなかったのだが
濃密な大恋愛……忘れられない元彼の存在
ナオさん(49歳)は、20代後半のときに大恋愛に陥っていた。仕事で知り合った3歳年下の彼に夢中になった。
「どうしてあそこまで惹かれたのかわからないんです。ただ、彼はいつでも半身後ろを向いているというか、恋愛の熱量は私のほうが明らかに上だった。真正面からぶつかってくる私を、彼は少し持て余していたような気がします」
友人からもらった映画のチケットがあり、一緒にしていた仕事が終わったこともあって気楽な気持ちで彼を誘った。なんとなく気が合って、一緒にいると楽しかった。それは彼も同じだったのだろう。すぐに「今度はゆっくり食事でもしよう」と誘われた。それが積み重なり、ひとり暮らしの彼の部屋に行くようになった。
「そこから歯止めがかからないくらい、彼のことが好きになっていきました。当時、私は27歳、彼は24歳。若かったですね。ただ、私はそれまで恋愛関係で特に強く嫉妬などを感じたことがなかったのに、彼に対してはものすごく嫉妬深くなりました。彼の同僚にきれいな人がたくさんいるのは知っている。だからいつ彼が私以外に目を向けるのか、いつも不安でたまらなかった」
27歳、好きすぎて彼の愛情の量と釣り合わない
今思えば、彼も愛情表現をしてくれていた。だが彼女は、自分の愛情の量にばかり目がいき、彼は私が彼を愛するようには愛してくれないと思い込んでいた。もちろん、それでもよかった。彼女は自分が彼を好きだという気持ちをもっているだけで幸せだったから。
「彼は口下手だったけど、出張帰りには必ず私の好物を買ってきてくれたし、合鍵も渡してくれていました。彼が出張中にいてもいいよと言ってくれたので合鍵を使って部屋に入ったら、私の大好きなスイーツや果物が冷蔵庫に入っている。出張前で忙しいのに買って置いていってくれる。そんなことがうれしくてたまらなかった」
それなのに一方で彼を信用しきれなかったのだ。私がこんなに彼を好きなのだから、いつ他の人から愛されて取られるかわからないと不安だった。
30歳、自分の愛情が重すぎて「自滅した」
全身全霊をかけて好きだと言えた。後にも先にもあれほど人を好きになったことはないとナオさんは言う。
「3年付き合っても私は冷めなかった。それどころかますます彼を独占したくてたまらなかった。今思えば自分に自信がなかったんでしょうね。今でも自信はないけど、私は私なりに頑張って生きてきた。当時はそう思えなかったんだと思う」
結局、何の証拠もないのに彼の浮気を疑い、闇のような疑心暗鬼に彼女自身が押しつぶされた。
「疲れちゃったとある日、つぶやいたんです。彼は『オレがナオを苦しめているんだね』と言って去りました。そうじゃないと引き止めたけど、『楽しくなさそうなきみを見たくない』って……。自滅したんです、私」
35歳、別の男性と結婚→元彼が忘れられず離婚
35歳のときに同い年の男性と結婚したものの、彼のことが忘れられなかった。相手にも悪いと思うようになって離婚を申し出た。
「ひとりになって仕事に没頭して、ほんの少し自分が生きていてもいいんだと思えるようになりました。恋愛もしたけどいつも心のどこかに彼のことがあって、本気で好きになることはなかったですね」
40歳、恋愛は不要「ひとりで生きる」と決めた
40代に入り、少し弱ってきたひとり暮らしの母を呼び寄せて同居するようになった。もう一生ひとりでいい、恋愛も不要、穏やかに年をとっていこうと決めた。ところが昨年暮れ、大恋愛の彼と再会した。
「こんなことってあるの?と思うくらい、空港でばったり会ったんです。ふたりとも出張に行くところでした。私は北へ、彼は西へ。真正面から彼が歩いてきたとき、私は体中が固まって動けなくなった。彼も『おお』と立ち止まって……。見つめ合っていたら、すっかり20年前に戻ってしまいました」
49歳、20年ぶりに元彼と再会した結果
今年の初め、彼から連絡が来た。昔のよしみで友だちとして気楽に会わないかと言われて、「私も大人なのだから友だちとして会えるはず」と待ち合わせた。
「もしかしたら10年前に会っていたら友だちになれたかもしれない。まだ若いから。だけど私も半世紀生きてきて、いちばんの後悔が彼のことだという自覚があった。この先、もう老いるだけ。このまま後悔の日々を送るのは嫌だと思った。でも彼と男女の関係になったら、また別れが見えてしまう。どうしたらいいかわかりませんでした」
彼に会って食事をし、ほろ酔いになったころには、あのことの強い情熱がまたナオさんの体の中を駆け巡っていた。だが、その情熱に流されてはいけない。彼は既婚者なのだから。その後も数回会い、彼への思いが爆発しそうになった。
「彼は『僕の人生の中で、きみと結婚しなかったのがいちばんの後悔だ』と言ってくれました。でも私は既婚の彼と関係をもつことにどうしても抵抗があった。そうしたら彼、『気にしなくていいんだよ、うちは完全に破綻してるから』って。それを真に受けていいのかどうか、悩みました」
彼は会うたび、自分の熱い思いを言葉にしてくれた。あのころ口下手だった彼が、今は口説き上手になっている。年月を感じてならなかったとナオさんは言う。
今現在、既婚者の彼との関係性は?
「結局、今も私たち、曖昧な関係を続けています。体の関係はないけど、週に2回くらいは会って話してる。いくら話しても話したりない。彼は週末も出てくるんですよ。事情があってまだ離婚という形はとっていないけど、離婚しているも同然なんだと言っている。この年齢で情熱をすべて傾けた結果、またひとりぽっちになるのはつらすぎる。保身のために一歩踏み出せない自分が情けないと思っています。年とって小ずるくなったというか、小利口になったというか」
思いをすべてぶつけたい。そう思いながらも自分を抑えてしまう。だから彼との関係は穏やかなままだが、このままでいいとは思えないと彼女は言う。
「一歩踏み出してしまいそうだけど、そんな自分が怖い。今はそんな感じです。彼は『この先、ずっと一緒にいたい。だから何も急がなくていいと思う』って」
ここで一歩踏み出して、結果的にそれが間違いだったとしても、人生、修復はできるはず。踏み出すか踏みとどまるかは彼女が選択するしかない。