子育て

PTA改革から9年目。任意制でも加入率100%の「嶺町小PTO」から学ぶ“持続可能”な組織にするヒント

2015年にPTA改革により生まれ変わった、東京都大田区立嶺町小学校「PTO」。団長の久米雅人さんと副団長の蒔野美登里さんに、改革後の組織を“持続可能”にしていくためのポイントを聞きました。

長島 ともこ

執筆者:長島 ともこ

子育て・PTA情報ガイド

400名もの親子が集まったハロウィンウォーキング

400名もの親子が集まったハロウィンウオーキング

2015年に改革以来、学校と保護者をつなぐ風通しのよいコミュニティとして存在し続けている東京都大田区立嶺町小学校「PTO」(家庭数:約700)。幹部のお二人に、改革後の組織を“持続可能”にしていくためのポイントを聞きました。
 

できる人が、できるときに、できることをやる。PTAから「PTO」へ

嶺町小がPTA改革により生まれ変わった「PTO」とは、「保護者と先生による楽しむ学校応援団」(Parent-Teacher Organizationの略。Oは応援団の掛け声「お~っ!」も意味するそう)。

2015年にこの団体になる以前は、強制的な役員決めや前例踏襲の運営など課題が山積みでした。

この状態に疑問を抱いた当時のPTA会長を中心とする本部メンバーが、学校や地域と対話を重ね、2015年に「できる人が、できるときに、できることをやる」を基本理念とした「嶺町小PTO」が誕生したのです。

これまでのPTA本部は「ボランティアセンター」(以下、ボラセン)に変更。くじやじゃんけんなどによる強制的な本部役員選出会を廃止し、保護者へのお便りを通じてメンバーを募集することになりました。さらに、運動会の会場見回りや地域のお祭りサポートなど、行事ごとにやりたい保護者、できる保護者を募る「サポーター制」を導入。任意加入制を整備し、保護者一人ひとりの主体性を核としたコミュニティに生まれ変わったのです。
「嶺町小学校PTOのしおり」より

「嶺町小学校PTOのしおり」より

改革から8年たち、「嶺町小PTO」として9年目を迎える2023度は、団長(PTA会長的な役割)1名、副団長(PTA副会長的な役割)6名以下、校外、安全防災、広報、ウェブ管理など合計39名の保護者がボラセンに在籍しています。

PTA改革は、運営方法や仕組みを大きく変えるものであるため、改革を継続するためには、その目的や必要性を理解し、継続するコアメンバーが必要となります。

しかし、PTA役員は任期制で入れ替えが頻繁に行われるのが一般的。そのため、改革によって生じた変化を継続することが難しくなり、後退する可能性もあるのです。

そんな中、嶺町小PTOは2015年に改革以来、一貫して保護者の主体性を核としたコミュニティとして持続しており、加入率も毎年100%。全国のPTAやP連から運営のヒントやアドバイスを求められる機会が後を絶たないそう。嶺町小PTOでは、改革後の組織をどのように持続可能にしているのでしょうか。
 

 組織は“変化し続けるもの”という意識を皆で持ち続けることがカギ

「ポイントは、“変化し続ける組織である”ことを受け入れる意識を、皆で持ち続けることだと思います。『今年は参加人数が少なかったから来年度は活動を縮小する』など、捉え方によってはネガティブな変化でも、皆で話し合って決めたことならそれでOK。さまざまなバックグラウンドをもった保護者がフラットにつながり、『こうしたらもっと良くなるんじゃない?』などと気軽に言い合える心理的安全性が確保された風土づくりを心がけています」というのは、2023年4月より嶺町小PTO第6代団長に就任した久米雅人さん。

お子さんの入学前からメディア等を通して嶺町小PTOの理念に共感し、学区内に引っ越してきたという久米さんは、上のお子さんが入学した2019年、PTO会員によるパパサークル「パパさんず」に入会。地域のお祭りの設営や夏休み子どもまつりのお手伝いなどの活動を行い、3年目に「パパさんず」の代表になりました。

「その翌年度からボラセンのメンバーとなり、校外活動に積極的に関わる中、前団長から次期団長になってみないかと声をかけられました。フルタイムで仕事をしていたので不安はありましたが、『方針を決めたり、何か決められないときに道筋を指し示す存在であればOK』という言葉に勇気づけられ、団長になることを決意しました」と久米さん。

もうひとりのキーパーソンは、副団長の蒔野(まきの)美登里さんです。2018年にボラセンメンバーとして1年間活動したあと、当時団長だった女性に誘われて、2019年から副団長に。以来、5年目を迎えます。

「当時団長だった女性が、メンバーとの“対話”を大切にしながら対等な立場でPTOの理念を伝える姿を目の当たりにし、『彼女を支えたい』という気持ちで副団長になりました。もともと人が好きな性格なのに加え、PTOは横のつながりも多い団体なので、活動を続けるうちに問題点や改善したい点も見えてきます。良い方向性を見つけて未来につなげたいと思う気持ちから、副団長を続けています」と、蒔野さん。

「活動でつまずくことがあると、『係の人数や当番を割り当てるほうが楽』という声が出ることもありますが、それにより主体性が失われてしまえば、本来のPTOではなくなってしまいます。ニーズがない活動ならやめたり、人数を減らしたりするなど柔軟な視点で活動できるよう、都度声をかけることを心がけています」

PTOの理念を理解するメンバーが団長・副団長になり、「マニュアル」でなく「スピリット」を伝え、次の代にバトンタッチしていくことが、持続可能なコミュニティにつながることがわかります。
商店街とのコラボイベントも毎年開催し、大盛況です。

商店街とのコラボイベントも毎年開催し、大盛況です。

 

学校との定期的な「対話」で信頼関係を築く

子どもたちの成長を支える持続可能なPTA活動に欠かせないのが、学校との「対話」です。

嶺町小PTOでは、団長・副団長の7名と校長・副校長先生との対話の会を月に1度のペースで開催。毎回30分から1時間、それぞれがお互いにお願いしたいことや相談したいことを話し合っているそうです。

「先日は、昇降口にある大きな水槽が劣化しているので、子どもたちをまきこんだ“水族館プロジェクト”のような形でリニューアルしたいと学校から協力のお願いがありました。さっそくサポーターを募集して準備を進め、子どもたちにも参加してもらい、大リニューアルを実施。管理職の先生方もPTOの在り方を理解してくださっているので、学校との協働も進めやすいですね」(久米さん)
保護者と子どもたちで進めた「水族館プロジェクト」

保護者と子どもたちで進めた「水族館プロジェクト」

先生たちは異動があるため、その方のお考えなどにより、コミュニケーションが円滑にとれない時期もあったといいますが、「あまり身構えず、『今日、子どもが学校でこんなことがあったと喜んでいました』などと共有したり、『学校で困っていることがあればいち早くキャッチしたいです』などPTOの姿勢を伝えることで、距離が縮まることもあります」(蒔野さん)
 

コロナ禍による保護者同士のつながりの希薄化が課題

たくさんの子どもたちの歓声に包まれた夏まつり

たくさんの子どもたちの歓声に包まれた夏まつり

新型コロナウイルスによる自粛が明け、これまで中止が続いてきたイベントが復活した今年度。夏まつりも本格的に復活し、子どもたちは大喜びでしたが、サポーターがなかなか集まらず苦労したそうです。

嶺町小PTOは、共働き家庭の増加に加え、「コロナ禍で、特に低学年の保護者同士のつながりが生まれなかったこと」と、その原因を分析しています。

「園時代は、保護者同士が顔を合わせる機会が多いもの。そこでできたつながりがあれば、小学校に入ってからも保護者が一緒に活動に参加しやすいものです。しかし、コロナによりそれができていないため、小学校に入ってからのつながりが希薄な中、PTOの活動に参加するのはハードルが高かったのではないかと考えています」(蒔野さん)

 
嶺町小PTO団長・久米雅人さん

嶺町小PTO団長・久米雅人さん

これを踏まえ、嶺町小PTOでは、全保護者を対象にアンケートを実施。PTOとの関わり方やライフスタイルなどについての意識調査を行い、保護者同士のコミュニケーションを活性化し、より参加しやすい組織にしていくための施策を検討していくそう。

試行錯誤を重ねながら、誰もが主体的に活動できる環境づくりに向け、惜しみなく力を注ぐ嶺町小PTO。学校と保護者をつなぐコミュニティとしてのさらなる進化が続きます。
 
嶺町小PTO副団長・蒔野(まきの)美登里さん

嶺町小PTO副団長・蒔野(まきの)美登里さん

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