2024年の新NISAスタートを前に関心が高まる高配当株。死角はないのか?
しかし、米国では金利上昇を受けて高配当株の投資妙味が薄れ、債券への投資にシフトする投資家もいると聞きます。日本も10年物国債の利率が0.8%と10年ぶり高水準となりました。
金利の上昇が続けば、高配当株の価格も影響を受けるかもしれません。高配当株投資は本当に大丈夫なのでしょうか?
このような疑問に対して、日米の投資環境は大きく異なると指摘するのが、経済ジャーナリストで株式投資ガイドの和島英樹さんです。日本の高配当株の今後の見通しについて解説してもらいました。
世界と違う動きを見せる日本の個人投資家
世界的にインフレ(物価の継続的な上昇)懸念から10年債などの長期金利の利回りが上昇し、このところ株式市場が軟調に推移する場面も見られます。一方、日本の個人投資家は少し違った動きを見せています。その背景には、2024年1月からスタートする新しいNISA(小額投資非課税制度)があります。
新しいNISAの年間投資枠は、つみたて投資枠が120万円(現行のつみたてNISAは40万円)、成長投資枠が240万円(現行の一般NISAは120万円)となり、大幅に拡充されます。生涯の投資総額は最大1800万円(うち成長投資枠は1200万円)となり、期間も無制限と使い勝手が良くなります。特に成長投資枠では高配当株投資に関心が高まっています。
一般的な株式投資ではインカムゲイン(配当収入)やキャピタルゲイン(売却益)に対して20.315%(2023年10月時点)が課税されますが、NISAではいずれも非課税になります。特に配当利回りの高い銘柄については、非課税となることで実質的な利回りがさらに高まることになります。とはいえ、高配当利回り銘柄へ投資しても、購入した株式の株価が下落してしまっては元も子もありません。配当収入よりも売却損が上回っては、結局損をすることになるからです。
日本株の投資環境が良い理由(1)日本はデフレ脱却局面である
しかし、現状の日本株を取り巻く環境は良好と言え、銘柄の選別さえ誤らなければ高パフォーマンスが期待できると思います。米国がインフレに悩んでいるのとは、違う理由があるためです。理由は2つあります。1つは日本がデフレからの脱却局面にあること。もう1つは東京証券取引所が上場企業に対してPBR(株価純資産倍率)1倍割れの是正(ROE=株主資本利益率=の改善)を求めており、企業がこれに応じて企業価値を高めてきていることです。
デフレ(デフレーション)とは物価の持続的な下落のことを言います。いわゆるバブルが崩壊した1990年以降の日本経済は、土地や株式といった資産価格が下落し、消費者の購買意欲を冷やしました。
消費者がモノを買わないと、企業の売上高が減り、業績の悪化で結果的に従業員の給料を下げる要因になります。これが、さらなる消費意欲の減退につながります。こうした動きがつい最近まで起こっていました。
一方、最近ではモノの値段が上がり始め、人手不足もあって社員の賃金も上昇基調になっています。これが消費を刺激し、企業の売上高が伸び始めています。企業の収益が改善すれば、財務内容も良くなり、自社株買いの実施や株主への配当金の支払いも増えることになります。
日本株の投資環境が良い理由(2)東証改革がかつてない効果
東証のPBR修正促進策は、従来さまざまな分野で政府や当局による「指導」がややもすれば効果がなかったことに比べ、今回はかつてないほど的確に前進しています。というのも、低PBRは、先進国では例がない長期デフレで企業が自らを守るために現預金を貯めこんだことも要因でしたが、近年のデフレ脱却や経済正常化を受けて資産効率を改善しようとの動きが企業の間で広がってきているからです。PBRの1倍割れは、市場価値が企業の解散価値を下回っていることを意味します。海外投資家からも日本のPBRが低いことが、日本株を買わない要因になっていました。
PBR=PER(株価収益率)×ROEの算式で求められます。PBRを上昇させるためにはROEの改善が不可欠になります。なお、ROEは株主から預かった資金でどれだけ利益を上げられたかの指標です。ROEの改善には資産効率の改善が不可欠です。自社株買いや持ち合い株式の解消などが有効ですし、増配も戦略となります。