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表輝幸(株式会社ルミネ・代表取締役社長)×江幡哲也(株式会社オールアバウト・代表取締役社長)

執筆者:All About Japan 編集部

今年6月、表輝幸氏がルミネの新社長に就任。グローバルな視点から事業を推進するその手腕に、大きな注目が集まっている。ルミネの海外戦略や、2025年3月のまちびらきに向けた「TAKANAWA GATEWAY CITY」の展望、そして、今こそ日本から海外に向けて発信すべき価値について、多言語メディア『All About Japan』で戦略的な海外発信を行っている、オールアバウトの江幡哲也社長が聞いた。  
表輝幸・ルミネ社長(左)と江幡哲也・オールアバウト社長(右)表輝幸・ルミネ社長(左)と江幡哲也・オールアバウト社長(右)


 

ルミネから日本を元気に

江幡社長(以下:江幡) 本日はよろしくお願いいたします。はじめに、表社長の経歴について教えてください。
 
表社長(以下:表) 旧国鉄が分割民営化された後、1988年に、JR第1期生として入社しました。当時JRが、「鉄道会社が持つポテンシャルを生かして、生活サービス関連事業を拡大する」という意思を発信していたので、その点にやりがいを感じて入社しました。
 
入社後は、36歳で日本レストラン調理センター社長に就任し、駅弁事業の立て直しや東京駅グランスタ開発に携わり、2011年にルミネへ。「ルミネ有楽町」の開業や「ニュウマン新宿」のプランニングに携わった後、2015年6月にJR東日本に戻り、今年6月にルミネの代表取締役社長に就任しました。
 
JRは、元は国鉄ですから、「日本を元気にする」という大きな使命を担っていると自覚しています。そこで「グループの代表格であるルミネから日本を元気にする」という命題を掲げているのです。
 
江幡 私は、1980年にリクルートに入社し、エンジニアとして通信事業の立ち上げを行ってきました。リクルートは、就職、結婚、住まいの購入など、人生の節目における「選択の自由」を提供してきましたが、90年代後半は、それを一気にデジタル化する仕事に携わりました。
 
2000年にリクルートから独立してオールアバウトを創業しました。戦後日本の社会システムは、国と企業が中心でしたが、デジタル時代の到来によって、今後は個人が活躍する場所が増える。そのステージづくりを推進しようという思いからでした。私たちが創業以来掲げているミッションは「個人を豊かに、社会を豊かに。」。そして「システムではなく、人間。」という理念を掲げています。
 
 ルミネが掲げるコーポレートメッセージは、「わたしらしくをあたらしく」です。今の時代、お客さまの価値観、自己表現の手段はますます多様化しています。ルミネは、お客さまに多様な選択肢を提供することによって、お客さまが「わたしらしさ」をアップデートできる場でありたい。一人ひとりのお客さまの「わたしらしく」をサポートすることで、社会に、未来に、好循環を広げていきたい……そんな思いが込められています。御社のビジョンとも通じるところがありますね。

ライバルは世界中の「ワクワク、ドキドキするもの」

表社長
江幡社長
江幡 ルミネでは、コロナで中断していたルミネの社員の海外研修を復活されるそうですね?
 
 はい。私が社長に就任してすぐに再開を決めました。よくメディアの方々に「ルミネのライバルは?」と聞かれるのですが、私の中では、ルミネがショッピングセンターであるという意識はまったくないのです。
 
世界のワクワク、ドキドキするもの……つまり、お客さまの心の中にある「感動」こそがライバルで、ルミネはそれを超えていかなきゃいけない。そのためには、ルミネの社員自身が世界の選りすぐりの感動を体験する必要があります。そこで、今年から海外研修を復活させることにしました。
 
江幡 「最高の感動体験がなければ、最高の感動は提供できない」ということですね。
 
 私自身も最近アジア各国を訪れたのですが、驚いたのは、コロナ禍の3年の間、日本のファッション文化に憧れを抱きながら日本に行くことができないので、自分たちで新たにアパレルブランドを立ち上げるなど、大きな変化が起こっていたのです。デザイン性や品質は日本を上回っているものもあり、価格も日本以上に高く、そのエネルギーには圧倒されました。
 
一方で、日本がコロナ禍による停滞の中で失ったものは大きいと考えています。今こそ、あらためて「日本の持ち味とは何か?」を再確認し、グローバルな視点でさらに価値を高めるにはどうすればいいかを考えるときです。そのためには、ルミネの社員が海外の空気を肌で感じ、ルミネならではの感動を企画していくことが大切だと思います。
 
江幡 ルミネは、ジャカルタやシンガポールにも出店されています。アジア進出の狙いは、どんなところにあるのでしょうか?
 
 最近ではグローバル化がますます進み、海外のマーケットに目を向けることは必要不可欠です。日本では人口減少とともにマーケットも縮小していきますが、アジア全体を一つの商圏と見れば、巨大な成長マーケットと捉えることもできます。
 
特にジャカルタやシンガポールは親日的で、ファッションをはじめとする日本文化に憧れを感じている人が多い。一方、アジアの国や地域には、それぞれ独自の魅力がありますから、ルミネらしく、若い人たちのエネルギーを通じて、その魅力を磨き輝かせ、さらに交流をかけあわせることで、結果的にアジア全体の成長につながっていくのではないかと思っています。
ルミネジャカルタ

ルミネジャカルタ

ルミネシンガポール

ルミネシンガポール

 

TAKANAWA GATEWAY CITYは、100年先を見据えた「壮大な実験場」

「TAKANAWA GATEWAY CITY」パース(外観イメージ) 画像提供:JR東日本

「TAKANAWA GATEWAY CITY」パース(外観イメージ) 画像提供:JR東日本


江幡 表社長はJR時代にシンガポールのエキナカ開発も手がけられたと聞きました。ルミネだけでなく、JR東日本としても、アジアで貢献できる可能性はありそうですね。
 
 今後、地球環境問題を考えていくうえで、鉄道による人流、物流は、世界的に交通の中心になっていくでしょう。もちろん、交通体系全体を、「モビリティ・アズ・ア・サービス」という形に変革しなくてはなりません。同時に、鉄道の駅は、情報発信拠点であり、交流拠点でもあります。こうした「駅の価値」を私たちが引き出して、駅を中心とした街づくりができれば、アジアだけでなく世界に対して貢献できると思います。
 
江幡 その意味では、TAKANAWA GATEWAY CITYは、まさにその試金石となりそうですね。
 
 TAKANAWA GATEWAY CITYでは、地域の歴史を継承しつつ、世界に新たなイノベーションを発信する場として「Global Gateway」というコンセプトを掲げています。分散型のあたらしい働き方、暮らし方をつくるため、街を「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づけ、世界中の多様なパートナーをはじめ、地域の方々との共創によるまちづくりを進めます。また、街全体でSDGsをはじめとした社会課題の解決、環境面での貢献施策を推進します。
 
実際、アジアの国々のVIPが来日された際に、TAKANAWA GATEWAY CITYのプランをお話しすると、「ぜひ自分たちも一緒にやらせてほしい」という熱烈なアプローチを受けるのです。彼らも、日本が現在直面している社会的課題は、将来の自分たちの課題であると認識しているからでしょう。
 
商業施設はルミネが運営します。既存の商業施設の領域にとどまらない、駅と街の一体開発だからこそ実現可能なサービスを提供する、ライフデザイン型の商業空間を目指します。開業はあくまでスタート地点と考えています。常にアップデートし続けることが大切ですね。

 
表輝幸・ルミネ社長(左)と江幡哲也・オールアバウト社長(右)


 

「日本人が気づいていない日本の魅力」を発信

表輝幸・ルミネ社長(右)と江幡哲也・オールアバウト社長(左)

 

江幡 表社長は、「世界に向けて発信すべき日本の良さ」は、どんなところだと感じられますか?

 第一は、「三方良し」という言葉に象徴される、日本人の精神性ですね。日本の経営者は、常に「世のため人のため」を意識しながら経営をしています。これは「サステナブルな成長」に不可欠な要素のひとつです。創業から200年以上続く老舗企業が、世界には約5,000社あるのですが、そのうち約3,000社は日本企業なのです。その背景には、いまお話しした日本人の精神性があると思います。
 
日本は世界における「課題先進国」です。この課題を日本がどのように解決していくのかに世界中が注目しているのです。ただし、社会的な課題解決にストレスを感じながら取り組んでも続かない。生きがい、やりがいとしてやるからこそ持続可能になるのです。「三方良し」に象徴されるように、「世の中が幸せになる」こと、「お客さまに感謝される」ことを自らの喜びとして、楽しく生きがいとしてやれる点が日本の価値だと思うのです。
 
第二は、ひとつのことを極めようとする精神性です。茶道、華道、柔道、剣道……鉄道もそうですが(笑)、細部にわたるさりげない心配り、美的感覚、繊細さ。これは世界的にも「価値あること」として評価されています。今はさまざまな海外企業が、外見的な形・デザインで「日本よりも優れている」とアピールし、若い人たちにも人気です。もちろん、価値あるデザインも大切だと思いますが、それ以上に大切なのは、「目に見えない、本質的な価値」ではないでしょうか。
 
長い時間をかけて培ってきた風土や文化は「人の精神性」ですから、簡単には真似することができません。これこそが日本の強みとして世界に通用する価値だと思います。私たちルミネが、そうした本質的価値を世界に向けてアピールする役割を果たせれば、日本が世界に貢献できる可能性は高いと思います。

江幡 とかく日本人は、「世界標準化が苦手」とか、「シャイで自分がやっていることをアピールしない」「英語が苦手」などと言われますが、これらは、学んで身につけることができますからね。
 
私は、「日本は世界中で一番厳しいマーケット」だと思っています。豊かで、お客さまの目が成熟していて、さまざまなものやサービスが用意されている。そこで生き残れる商品やサービスは、世界のどこに行っても通用するはずです。
 
 世界のラグジュアリーブランドの経営者たちと話すと、誰もが「本当にいいものは、日本で生産されたものだ」と言います。日本のマーケットで支持されれば世界に通用する……そのことを、彼らは明確に認識していますよね。

江幡 弊社で運営している『All About Japan』というメディアでは、そうした「日本人が気づいていない日本の魅力」を発信しています。いま、海外に向けた日本の情報発信は、海外の人たちのニーズと合致していない。そこで、「ニーズを熟知している日本通の外国人に、ネイティブ言語で発信してもらう」という方法を取っています。
 
 なるほど、それはいい方法ですね。「デジタルで実現できること」と、「リアルな体験価値」をかけ合わせることで、日本の人々だけでなく、世界中の人々のライフバリューを向上させることができそうですね。
 
江幡 ぜひ、ともに挑戦していければと思います。本日はありがとうございました。
表輝幸・ルミネ社長(右)と江幡哲也・オールアバウト社長(左)

 


表 輝幸(おもて・てるゆき)代表取締役社長
1988年、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に入社。ホテル、住宅、新規事業開発等に従事。2000年、株式会社日本レストラン調理センター社長にグループ最年少で就任。その後、株式会社日本ばし大増、株式会社紀ノ国屋のM&Aを手掛け、東京駅グランスタ開発等を牽引。JR東日本事業創造本部 開発・地域活性化部門長を経て、株式会社ルミネ常務取締役、専務取締役を歴任。2015年にJR東日本に戻り、2016年に執行役員事業創造本部副本部長に就任、「生活サービス10年ビジョン」を策定。2021年に常務執行役員就任、2022年、常務執行役員マーケティング本部副本部長として「Beyond Stations構想」や「品川開発プロジェクト」などを推進。2023年6月、株式会社ルミネ代表取締役社長に就任。
 
表社長







江幡哲也(えばた・てつや)代表取締役社長兼グループCEO
1987年株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げる。1996年に立ち上げたキーマンズネットにおいては、14個のネット関連特許を取得し、高い評価を得る。1998年度全国優秀システム賞受賞。2000年、株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパンを設立。代表取締役社長兼CEOに就任。2004年、株式会社オールアバウトに社名を変更。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。専門家ネットワークを基盤に世の中の「情報流・商流・製造流」の不条理・不合理に対してイノベーションを起こし、“個人を豊かに、社会を元気に”することを目指す。2022年度 東京都市大学大学院 総合理工学研究科客員教授に就任。
 
江幡社長










Text/ Akira Umezawa Photo/ Seiya Kawamoto



 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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