在宅手当が残業代算定から除外されると手取りが減る?
しかし、そもそも在宅手当や残業代算定とは何なのでしょうか? そして、在宅手当が残業代算定から除外されることで手取りが実際どの程度減るのでしょうか?
ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の拝野洋子さんが、この疑問にお答えします。
Q. 在宅手当てとは?
在宅手当とは、社員が在宅勤務をする場合に在宅勤務時のPCやスマホ、椅子などの備品、通信費や電気代を企業が補填する手当です。月額1万円など金額を決めて定額で支払う方法と、実費で支払う方法があります。定額の場合は月額3000円から1万円を支払うところが多いです。Q. 残業代算定とは?
残業代は社員が所定労働時間を超えて働いた場合、月給に加えて支給される賃金です。残業時間のうち法律に定められた労働時間1日8時間を超えた時間が割増賃金の計算の基礎となります。残業代算定には、月給の場合、「(基本給+各種手当)÷1カ月当たりの所定労働時間」で「1時間当たりの賃金」を計算し、1日の所定労働時間を超えた時間数を掛けて計算します。「1時間当たりの賃金」を計算する「各種手当」には、家族手当、通勤手当、子女教育手当、臨時の賃金、1カ月を超えるごとに支払われる賃金(賞与等)は原則除外します。現在(2023年10月5日時点)は、在宅手当をこの各種手当に加えることになっているため、残業代の計算に使用される「1時間当たりの賃金」が在宅手当を加えた分、高くなっているのです。残業代の計算に含めるのは、定額支給の在宅手当です。実費支給の在宅手当は除かれます。
Q. 在宅手当を残業代算定から外す背景は?
新型コロナウイルス下で在宅勤務などのテレワークが広がり、在宅手当を導入した企業の支払う残業代が多くなってしまったため、2024年度から労働基準法の施行規則を「在宅手当は残業代算定のための賃金から除かれる」と明記する形で見直す方向です。「在宅で働ける人の方が残業の基準額が高くなるのは不公平」という意見もあることも見直しの理由の1つです。Q. 手取りは具体的にどの程度減るの?
在宅手当が残業代算定から除外されることで、実際どの程度手取りが減るのでしょうか。例えば、年収700万円(賞与年2回各50万円、月給50万円、通勤手当実費支給)、在宅手当が定額で月1万円、1日の所定労働時間8時間(法定労働時間と同じ)、1カ月の総労働時間160時間(20日労働)、1カ月の残業時間は40時間、残業代は1時間当たりの賃金の1.25倍として、試算してみます。
*賞与・通勤手当は残業代算定から除きます。
▽在宅手当を加えた残業代算定
・1時間当たりの賃金:月給51万円÷160時間=3187.5円≒3188円(50銭以上切り上げ)
・1カ月の残業代:3188円×40時間×1.25倍=15万9400円
▽在宅手当を除外した残業代算定
・1時間当たりの賃金:月給50万円÷160時間=3125円
・1カ月の残業代:3125円×40時間×1.25倍=15万6250円
このケースでは、在宅手当が残業代算定から除外されることで、1カ月の残業代が3150円少なくなります。
一見、影響が小さいようにも思えるかもしれませんが、年間では約3万7000円。結構な額になることが分かりますね。