政府から一定の指針は出されているものの、各自治体、各避難所によって設備や環境は大きく異なります。通常、地域の学校の体育館や公共施設、集会所などが避難所として使われますが、場所によっては広い空間を家族ごとに区切っただけの、クッションや目隠し用の間仕切りすらないケースもあります。日常生活とは大きく異なる環境下でさまざまなストレスにさらされるため、トラブルも多く発生します。
避難所は「対人トラブル」が発生しやすい
災害発生時の被害状況にもよりますが、発災当初は定員を大きく上回る住民が一つの避難所に集まってしまう場合もあるため、「対人トラブル」が発生しやすくなります。避難所は、利用者のための避難所ルールが事前に決められており、入所の順番や利用できるスペース、入所者の役割分担などが細かく決められていますが、残念ながら、必ずルールを破る人はいて、自分のわがままを権利として要求する人が出てきます。
避難所は入所した住民を中心に、学校や施設の職員、自治体から派遣された公務員などが交代で運営にあたりますが、その苦労は並大抵のものではありません。
筆者はこれまで発災当日から3~4日後に現地に入ることが多かったのですが、目の前で住民が運営側に無理難題を要求する場面に出くわす事が何度もありました。同じ地域の住民同士とはいえ、見ず知らずの他人が急に同じスペースで24時間過ごすことになる場合には、さまざまな困難が発生するのです。被災後のメディアではあまりこのような事は報道されませんが、実際の現場は大変厳しいものになります。
非日常の環境下で襲われる「強烈なストレス」
被災直後のある避難所では、インフルエンザやノロウイルスの感染者が複数発生し、エコノミー症候群の疑いのある人などを運ぶ救急車のサイレンが絶え間なく鳴り響く中、住民同士のトラブルで怒号が飛び交う戦場のような状況でした。自宅の快適な環境とは大きく異なる非日常の避難所生活では、誰もが精神的にも肉体的にも疲弊します。エアコンのない室内、硬い床、音、人の気配、他人が放つ臭いなどの全てがストレスになります。
関東を直撃した台風直後、多くの人が集まっていた避難所を訪問して住民に話を聞いた際には、「この避難所のスペースではとても寝ることができない」と、夜になると自分の車に移動してエアコンをつけて家族だけで寝ていると聞きました。
他の被災地でも同様です。自宅が壊れてしまったというある子育て世帯は、指定された避難所が人であふれかえり、あまりにも劣悪な環境であることに危機感を持ち、入所を諦めて自家用車での車中泊に切り替えるか別の避難所を検討したいと言っていました。
避難所の環境に「関心を持つ」ことも大切な備え
そんな中、避難所の環境の改善に動いている自治体もあります。コロナ禍の経験から集団生活は感染症のリスクが高まる事をふまえ、避難所の収容可能人員を大幅に抑え、間仕切りのパーテーションではなく、家族別に簡易テントでプライバシーを確保する、ダンボール製の簡易ベッドを支給するなどして、より快適な環境を提供しようとする地域もあります。しかし、このような設備が整った避難所はまだごく一部にすぎません。避難所とは、自分の好きな場所に入れるわけでも早い者勝ちというわけでもありません。一定のルールで入所が決められています。まずは自分の自治体が運営する避難所はどういうものなのか関心を持つことから始め、自治体から指定された避難所だけではなく、自分でいくつもの避難場所の選択肢を用意しておくことが大切です。
「行けば何とかなる」ことは決してない
さらに何の備えもなく「行けば何とかなる」と思うのは大きな間違いです。避難所で必要になるものを事前に準備していつでも持ち出せるように準備しておくこと。少しでも休息を得るために避難袋には「耳栓とアイマスク」は忘れずに入れておくことをおすすめします。【関連記事】
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