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猛暑の夏、中国で日焼け止め市場が大混戦!

強いエルニーニョ現象が発生している2023年の夏、中国人は日焼け対策を徹底しています。そこで発生している奇妙な現実と隠れたビジネスチャンスとは?

執筆者:All About Japan 編集部

異例の猛暑

2023年の夏はかつてないほど暑いようです。日本では、梅雨の時期でも雨が少なかったですね。中国では5月末、南の広州市ですでに39℃に達し、中部の上海市の気温は過去100年間で最高を記録しました。6月には北の北京市の気温は過去60年間で最高の41.1℃に到達、6月22日には41.8℃となり、これは統計が始まった1961年以降最も高い記録でした。7月に入ると、広東省の一部の地域では、地表温度が70℃を超え、地面で卵焼きを作れるほどになりました。
図:北京地壇

図:北京地壇

しかし、残酷なのはこの暑さがまだ始まったばかりだということ。7月11日から、「三伏※」に入り1年で最も暑い時期を迎えています。このような異例の暑さに対し、中国各地の政府が高温警報を発令し、電力の安定供給を保障し、高温手当などを支給している企業もありますが、平日会社に通勤しているサラリーマンにはそれだけでは不足です。この猛暑に対抗しようと中国人たちは様々な対策をしています。その中で特に面白いのは、日焼け対策です。 
※三伏(さんぷく):中国の陰陽五行説に基づいた言い方、一年で最も暑い時期を指します。

紫外線と戦う「覆面強盗」大軍

連日の猛暑は、耐え難い暑さと強い紫外線の両方との闘いです。両方に打ち勝つのは無理だと考えた中国の多くの若者は「宁愿热死也不能晒黑(暑さで死んでも日焼けをしない)」道を選びました。
 
この夏に中国の都市で散歩していると、必ずこんな奇妙な「風景」が見えます。主に黒、白、グレーのUVカットの服を着ている人々が、帽子やマスクで口元まで隠して、まるで犯罪をする前の「覆面強盗」のような出で立ちで、地下鉄の駅やバス停に集まっています。彼らは決して不審者ではなく、通勤途中のサラリーマンです。
通勤途中のサラリーマン

 

「暑いけど出勤しなきゃ」という現実的な理由で、みんなは日焼け対策を徹底しました。隠し過ぎて顔が全く見えず、性別さえ分からなくなっている人がぞろぞろいるのです。これは「硬核防晒(本格的な日焼け対策)※」と呼ばれています。
※硬核:英語のhardcoreから訳されたことで、「筋金入りの、熱烈な、本格的な」という意味になります。
「イカルド」と似ている「硬核防晒」の姿

         「イカルド」と似ている「硬核防晒」の姿
           出典: Redユーザー@嗝嗝huiii

正直なところ、こういうルーズなサンウエアはあまり格好良くないですし、人によっては醜いとさえ思ってしまいますが、きれいな写真を撮ることが好きな中国の若者たちは、そのスタイルを受け入れるだけでなく、周囲の人に紹介し、SNSで投稿することがトレンドになりました。例えば、「日焼け対策初心者」に向けて、日焼け止め乳液、日傘、サングラス、帽子のような日本でもよく見られる基本的な商品をオススメします。上級者向けには、質がいいブランド品の日焼け対策グッズはもちろん、ワンピースのようなUVカット服と靴下も不可欠だと教えているのです。
図:Redで「硬核防晒」を検索して、出た結果の例

図:Redで「硬核防晒」を検索して、出た結果の例

写真のように、例えば名探偵コナンの犯人の犯沢さんや、『千と千尋の神隠し』のカオナシなどのキャラクターになり切って日焼け対策をコスプレに代えてしまうメリットは、偶然に知人と出会っても認識されず、恥ずかしくないので堂々と出かけられることです。 

驚きの市場規模

天気よりホットになっているのは「日焼け対策グッズ」です。一番注目されているのはUVカット服です。中国華経産業研究院は、中国の日焼け止め服の市場規模が2021年の611億元から、2026年の958億元(約1.86万億円)に増加すると予測しました。実際にそのように推移しているようです。今年の5月から7月中旬まで、中国の「抖音」(中国版Tiktok)で、「防晒服(日焼け止め服)」というキーワードに関する動画の再生回数は150億を超えました。中国知名のECサイト「JD.com」傘下の研究院が公開した「2023高温消費観察」レポートによると、6月26日から7月9日までの2週間の間に、日焼け止め服の売上は前年比58%増加しました。出典:京東消費及び産業発展研究院「2023高温消費観察」

出典:京東消費及び産業発展研究院「2023高温消費観察」

中国消費者は商品のブランド、素材、技術などを重視しています。アパレルの大手、ユニクロのエアリズムUVカットシリーズは相変わらず人気を維持し、アウトドアブランド、例えばColumbia、MammutなどのUVカット商品も注目されています。このようなアウトドア商品は値段が高いのですが、T(UVA)AVやUPFなどのUVカット指標が明確に表示されているので、ECサイトで「信頼できる」「安心感がある」といったコメントがたくさん見られます。そして、中国メーカーもこの市場を開拓しています。AirLoop素材、涼感テックを活用しながら、従来なかった「ヒアルロン酸配合」、「蚊よけ効果」などの新概念製品も次々と登場しています。本当に効果があるのかまだ検証の時間が必要ですが、日焼け止め服の市場は大混戦であると言えるでしょう。
中国のネットで「日焼け止め服」比較の動画投稿(例)

                中国のネットで「日焼け止め服」比較の動画投稿(例)出典:Bilibiliユーザー「老爸评测」

同時に、ほかの日焼け対策グッズも売上上昇中です。「2023高温消費観察」レポートによると、日傘、日焼け止めクリーム、日焼け止めスプレーなどの日焼け止め商品の売上も前年比50%以上になりました。現在の中国人消費者はスキンケア製品のような「ソフト系」日焼け対策製品を買うと同時に、物理的に日差しを遮断できる「ハード系」製品も強く求めています。また女性用に限らず、キッズ用と男性用製品も前年比70%と67%増加しており、そこに新たなブルー・オーシャンが現れました。

勝負はこれから

日本の企業は、異常気象がもたらすビジネスチャンスをつかめるのでしょうか?
 
いままで日本ブランドの日焼け止めは人気商品として中国消費者に愛されてきました。昔バイヤーたちがよく扱ったアネッサ、SHISEIDO、SkinAQUA、DECORTEなどの日焼け止め乳液商品は、国際郵便で送れないあるいは確認が必要なものとして分類されていますが、今は越境ECサイトのオフィシャルストアで簡単に買えます。そして、デザインがかわいいかつ軽い折りたたみ傘ブランド「Wpc.」も中国市場に進出して、現在中国大手ECモール「Taobao」内のオフィシャルストアで34万のフォロワーを獲得しました。
 旅行中でも「硬核防晒」

旅行中でも「硬核防晒」出典:Redユーザー薯条(左)、AAA专业美缝老李(右)

中国消費者が重視する品質と新テクノロジーなどは「Made in Japan」なら十分提供可能なので、この猛暑に乗じて、日焼け対策グッズだけでなく、関連の製品例えばビタミンDの補充剤などの健康サプリメントにもビジネスチャンスがあります。各アパレルブランドのUVカット服がたくさん出ていますが、かわいいデザインがまだ少ないので、この夏、さらに今後に向けて新しい商品を開発すれば、中国市場でいい反響があるかもしれません。
 
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執筆者:王 黛青(All About Japan 簡体字 編集リーダー) 
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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