共通テストが大学入試センター試験(以下、センター試験)と大きく異なる点は、問題文の長さや、架空の人物を登場させる場面設定にあります。
これらの点について、2023年度の「世界史B」の問題を解いてみてわかった、共通テストの致命的な問題について取り上げます。
無駄に長い問題文の多くは“読み飛ばしても”問題なかった?
2023年度実施の本試験「世界史B」の問題を解いてみたところ、相変わらずセンター試験と同様、重箱の隅をつつくような知識を問う問題が大半でした。さらに「これが思考力を問う新タイプの問題か!」というものは残念ながら少なく、むしろ目立ったのは、いわば無駄な説明文や場面設定です。 例えば、第3問は、「世界史を学ぶ際には、単に歴史知識を獲得するだけではなく、それに対する疑問や議論を通じて歴史への理解を深めることが重要である」という教訓じみた書き出しから始まります。そして、「そのような授業や対話の様子について描写した次の文章を読み、後の問いに答えよ」と続きます。しかし、単に「ある授業の様子について……」という書き出しだけでよく、ここまで長くする必要はなかったのではないでしょうか。
この後、先生と生徒(岡村さん)の対話文が展開されます。先生の「次の資料は、かつてフランスの統治者であった人物の没後200年を記念して催されたある行事で、マクロン大統領が行った演説の一部です」という発言の後に、資料の一部が引用されています。
ところが、演説の資料を読むまでもなく、フランスで没後200年を記念する人物といえば、「ナポレオン・ボナパルト」のことです。それは図の「有名な絵画に描かれている人物の姿」からもわかります。そして、問1の「図の出来事が起こった時に、フランスを統治していた国王について述べた文として最も適切なものを選ぶ問題」では、ナポレオンが島流しにあった後に王位についたのが、ルイ18世という知識があれば、対話文のすべてを読む必要はありません。
つまり第3問Aは基本的に、対話文を読み飛ばしても解ける問題だったのです。ただ素直にナポレオンやルイ18世と出題してくれないところに、単純に知識を問う問題ではないという共通テストの意図があるのかもしれません。
とにかく回りくどい共通テスト……
ここで少し、センター試験の世界史の基本的な出題傾向について紹介しておきます。出題形式そのものは、共通テストと基本的に同じくほとんどが四択問題で、その多くは最も適切なものを選びます(まれに適切でないものを選ぶ問題もあり)。ただし、はっきりと傾向が異なるのは、以下のような形式です。
【センター試験】
ビザンツ帝国では、ローマ法の集大成が行われた。
【共通テスト】
貨幣1の発行国では、ローマ法の集大成が行われた。
(第4問A問1の選択肢1より)
共通テストの場合、このようにとにかく出題の仕方が“回りくどい”のです。貨幣1を発行した国がどこなのか問題文にはっきりと書かれていないため、問題文の記述や資料から判断しなければいけません。
これを「判断力」を測っている問題として出題しているのかは疑問ですが、少なくともセンター試験と同様、ビザンツ帝国に関する細かい知識がないと、正解を求めることができないことに変わりはありません。
“日本語のまちがい探し”レベルの消去法で解けた選択問題
またもう一つ、2023年度「世界史B」の問題のなかで疑問を感じたのが、第2問の問1「対話文と家系図を参考に、図の絵柄について述べた文として最も適切なものを選ぶ問題」です。 まずは、各選択肢を見てみましょう。共通テストもマーク式の問題なので、基本的には消去法で解いていきます。<第2問A問1の選択肢>
1. 右の図柄は、クレシーの戦いにおける旗の図柄と同じである。
2. 左の図柄は、アンリ4世がカペー朝とつながりがあることを表している。
3. フランス王家とイングランド王家との統合を表している。
4. アンリ4世が父からナバラ王位を継承したことを表している。
まず、選択肢1の「右の図柄」は、「左の図柄」のまちがいです。また、選択肢4に「アンリ4世が父からナバラ王位を」とありますが、家系図には「ジャンヌ=ダルブレ(ナバラ女王)」とあるため、「母から」のまちがいです。対話文にもそのような記述がありますが、いずれも日本語レベルの誤りなので、正直世界史の問題といえるかどうか疑問です。
正解は選択肢2なのですが、そもそもルイ9世がカペー朝の王という知識があれば、対話文を読むまでもなく家系図からわかります。念のため対話文の前半を読んでみると、たしかにそのような記述がありました。選択肢3に関しては、なんとなく解いていると思わず選んでしまいそうですが、選択肢2が正解であると自信を持って答えられれば迷うことはありません。
つまり、このように「まちがい探し」の要領で設問を先に読み、必要に応じて図や対話文をつまみ読みして、消去法で解くことで対応が可能だったのです。
そうかと思えば、続く問2では、プロテスタントについての正しい記述、問3では、宰相マザランが死去した後の親政について、単純に知識を問う問題になっています。これは、従来のセンター試験と同じ出題傾向です。
共通テスト型の「思考力」を問う問題はないのか?
それでは、共通テストに思考力を問う問題はないのでしょうか。唯一、対話文から読み取る必要がある問題があったので、それを紹介します。第3問B問5の「下線部aについて述べた文『あ・い』と、対話文から読みとれる朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する考えについて述べた文『X・Y』との組合せとして正しいものを選ぶ問題」です。 下線部aは「科挙」のことで、それ以前に行われていた郷挙里選について述べられた「あ」の文を選べばよいのは、知識だけで判断できます。しかし、XとYについては教科書に載っていないため(=知識を問われていないため)、対話文から読み取らなければいけません。・朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する構え
X:朝鮮の知識人が、科拳を採用せず広く人材を求めない日本を批判した。
Y:日本の儒学者が、周の封建制を否定的に考え、科挙の導入を提唱した。
ここで、知識があやふやな人の中には、「あれ、こんなこと教科書に載ってなかったぞ」とあわてた人もいたかもしれません。しかし、下線部aの前後に「科挙は文才を重視し過ぎて実際の役に立っていない」、一方、日本は「周代の制度を参考にして、文才ではなく人柄を重視しようとした」とあります。つまり、対話文をつまみ読みすれば、日本は科挙の導入に反対的な立場だったとわかるので、Yは誤りと判断できます(「あ」と「X」の組合せが正解)。
つまり、対話文から読み取る必要がある問題であっても、このように実際に問題を解きながら考えてみると、日本語レベルの「読解力」が問われているにすぎないことがわかります。むしろ、年号を覚えていないと解けない問題もいくつかあり、センター試験と同様、細かい知識が問われていることに変わりはありませんでした。
問題文を読み飛ばす「判断力」が必要? 2024年度受験生に必要な対策
受験生にとって、共通テストの最大の懸念材料は、問題文の量です。従来は二十数ページだったのから三十数ページとおよそ1.5倍になり、これを60分間で解かなければいけません。1ページに割ける時間は2分もないため、問題文や資料を隅から隅まで、すべて丁寧に読んでいると明らかに時間が足りません。このような出題傾向に対応するにはまず、文章を速く読む「速読力」が必要です。そして、皮肉にも、問題用紙をぱっと見てこれは知識だけで解ける問題か、対話文や資料を読まなければいけない問題かを瞬時に見極める「判断力」も必要です。
ここではこれ以上くわしく紹介しませんが、例えば第5問B問4は、与えられた資料(表やグラフ)をじっくり読み込むことで、正解にたどり着ける問題でした。しかし、これは従来のセンター試験のように、「2.鉄道施設は19世紀前半なので誤り」「3.農業調整法はアメリカのことなので誤り」「4.穀物法の廃止も19世紀中ごろなので誤り」と、そもそも丸暗記した知識さえあれば解ける問題でもありました。
少なくとも世界史に関しては、センター試験と同様に知識を詰め込むという対策に変わりはないようです(ただし、このような出題傾向も、新課程の高校生が大学受験を迎える2025年からは、通用しない可能性があるので注意が必要です)。
【関連サイト】
大学入学共通テスト令和5年度 本試験の問題 世界史B