電子レンジさえ使えない夫
熱を出して寝込んだ彼女は、夫の本性を知ることとなる
たとえば先日もこんなことがあった。ユキコさんが高熱を発して寝込んでしまった。医師の往診を頼んだところ、コロナやインフルエンザではないという。夫の実家が引っ越したため、その数日前から3日にわたって彼女は夫の実家で手伝いをした。
「義父母が高齢ということもあって、私と夫の弟の妻がひたすら準備を進めたんです。朝から夜まで休みなしでふたりともがんばった。義妹は2日目に腰を痛めて翌日は来られなかったので、3日目は私ひとり。体がガタガタになるくらい疲れました」
そのあげくの高熱だから、おそらく疲労からくるものだろう。それでも娘には食事をさせなくてはならない。朝から調子が悪かったユキコさんは、昼過ぎに夫に連絡をとり、できれば早く帰ってきてと訴えた。ところが夫は午後から重要な会議と商談があって無理だという。
「しかたがないから、ふらふらしながらあり合わせで夕飯を作って娘に食べさせました。もちろん夫にも用意しましたよ。夫が帰宅したのは午後8時過ぎで、娘はちょうど寝るところ。私も起き上がるのもつらかったので、夫に『テーブルの上のものを電子レンジでチンして食べて』と言ったんです。夫は『わかった』と」
だが夫が食事をしている様子がない。気になったユキコさんは、電子レンジ使ってよと声をかけた。
「そうしたら夫、『わかった。だからやって』って。はあ?とキレそうになりました。電子レンジくらい使えるでしょと言ったら、『ひとりで夕飯を用意するの?』と。用意はしてある、温めるだけよと言ったら、『うん。だからやって。待ってるから大丈夫』。何が大丈夫なのかさっぱりわからない。要するに私が温めて出さないと食べないぞということでしょう。食べなくてもいいと言いそうになったけど、もうそれすらめんどうで、電子レンジでおかずを温めてテーブルにバンと音を立てて置き、自室にこもりました。熱が出ているから夫と一緒の寝室にはいられない」
納戸のようになっている小部屋でユキコさんは寝ていた。夫へのそんな気遣いも夫にとっては当然のことなのか、なにも言ってはこなかった。
「9歳年上ですよ。私が中学生のとき、彼はすでに社会人だった。あんなに熱烈にプロポーズしたのに、思いやりひとつ持てないなんて。愕然としましたね」
今までだってがっかりすることは多々あったが、ユキコさんは出産以外で入院ひとつしたことがないほど丈夫だった。だから心身ともに弱ったときに夫がどういう言動を見せるのかわかっていなかったのだ。
「年上だから優しいとか、年上だから考えが深いとか、そんなことはないんだと心の底からわかりました。夫とは今後、たぶんつきあい方が変わっていくと思います」
来年、娘は小学校に上がる。それまでに仕事や人生設計を再度、考え直したいと彼女はまじめな表情で言った。